第73話 戦線の調理場①
「気をつけろー。いち、に、いち、に……」
ドワーフ達が大理石の板を運んでいる。
「……よし、おろせ」
ゴトッ
「いいぞ、しっかりハマった」
「動かしてみて」
「ほい」
大理石を埋めた台の横にあるレバーを引く。
ガチャン
台が一段階高くなった。
もう一度レバーを引くと、さらに一段階高くなる。
「……よし」
「調理台も完成」
ドワーフ達は後ずさりし、調理場全体を眺める。
調理場は煉瓦でコの字に囲われ、屋根がある。
調理台、鍋台、火床、水場が設置され、壁には小さな振り子時計が掛けてある。
「……うん!」
「こないだまでの、皮張った屋根に石積んだだけの姿から比べたら、大したもんでしょ!」
「じゃ、[受け皿]の設置だ」
――その頃、城内では。
「"戦線給仕員"のみなさん」
会議室に集まった人間に、ルトが話している。
「我々の任務は、戦線を守る人達に美味いメシを届けることです」
「城内の厨房で仕上げた料理が、不思議な装置で各戦線に送られてくる。俺たちはそれを戦線の調理場で受け取り、温めたり取り分けたり、片付けたり……」
「休憩時間に茶を沸かしたり、夜食を用意したり。セントールやエルフが狩ってきた肉を捌いて焼いたり……そんな感じです」
「細かい事は後日、戦地で調理場を見ながら説明しまーす! 質問ありますかー」
「調理場はいつ見学できるんですか?」
勝気そうな若い娘が手をあげて質問する。
「間も無く完成するので、それ次第ですぐに」
「分かりました」
「異種族とメシの話が出来るたぁ、楽しみだぜ!」
海賊船にいそうな男が声をあげる。
「戦線の皆様のお役に立てる機会をいただけて、嬉しいです」
穏やかな細身の男も口を開いた。
「馬にも乗れる、勇敢な皆さんを選んだんで、まぁとりあえず、仕事楽しんでください。以上!」
――城内の厨房近くのテラスには、セリクとノーム達がいた。
バルコニーの床に大きな羊皮紙を敷いている。
羊皮紙いっぱいに大きな魔法陣が描かれている。
「"受け皿"の準備ができたら、魔法陣が光るはずだ」
「綴りが間違えてなければな」
しばらくすると、魔法陣から薄い光が発せられた。
「お、きたな」
「よし、鍋をここへ」
「こぼすなよ」
「どけどけ」
セリクが魔法陣の上に密封した鍋を置く。
ノーム達が手をかざし詠唱する。
ヴンッ…………バシュッ!
鍋と同じ幅の光のトンネルが戦線の方向へ伸び、そのトンネルに沿って鍋が高速で飛んでいく。
「いけたな」
「受け側がどうか」
「ひとまず確認だ」
「行きましょう」
ノーム達はわらわらと動き出した。
セリクは後をついていく。
――ノーム達が戦線に到着すると、ドワーフ達が、届いた鍋を火床にかけていた。
「ちゃんと受け取れたよ」
「中身も無事」
「ただ、やっぱ危ないから注意は必要だね」
「火床もいい感じ」
火床は二段になっており、上の段に炭があり、下の段には魔法陣が描かれている。
「水場の装置も稼働した」
「これで完成だな」
「まずまずの出来だ」
「では、ルトさんに報告しますね」
「いい調理場になったよね」
「みんな、喜ぶといいね!」
ドワーフとノームとセリクは鍋のスープを飲みながら、じっと調理場を眺めた。




