第70話 セントールの国①
セントール探訪チームは草原を抜け、
ゴツゴツした岩場の道、湿地を越えて再び草原へ。
草原の先に森がある。
森を進むと明るくひらけた空間があり、
藁で作られた簡素なテントや、木でできた小屋などがいくつか見える。
藁のテントのそばに、弓の手入れをするセントールの姿があった。
近づく気配に気付き、こちらを向く。
「……あ、あれ! 見て〜!」
馬の手綱を持ち、先頭を歩いていたエリューが声をあげる。
「こんにちはー!」
「人間の客人は、珍しい。道に迷われたか」
セントールはエリューに向かって歩き出す。
「いいえ! きゃぁぁぁーー」
(大きいぃぃぃーーー!)
エリューは喜びの声をあげる。
気配に気付いた他のセントールが2人現れる。
「みなさんに会いに来ました! あの、よければ握手してください!」
エリューは手を差し出してグッと頭を下げる。
セントールは一瞬、顔を見合わせるが、中の1人が握手に応じる。
「きゃあぁぁーーありがとうございますっ」
エリューは瞳を輝かせ、大きな手を両手で握り返す。
「我々はガーシュタルク帝国から参りました」
ライネフの言葉に、エリューはハッとする。
「そうでした。私はガーシュタルク帝国皇帝の婚約者のエリューです。皆さんにお願いがあって、やって来ました」
セントールの手を握ったまま言う。
「左様か、ならば長の元へ案内しよう。馬と荷物はそこの者が預かろう」
みな手綱を周りのセントールに預け、奥のセントールへついていく。
「長よ、ガーシュタルク帝国からの使者がお越しだ」
長と呼ばれたセントールがこちらに体を向ける。
「は、はじめまして! 帝国皇帝の婚約者エリューです。お目にかかれて、光栄です!」
エリューは巻きスカートにズボン姿だが、見事な美しい所作で腰を落とす。
「遠路はるばる、よくぞお越しになった」
「……きゃぁぁー握手してください!」
片手を頬に当て、片手を差し出すエリュー。
(こんなノリで大丈夫なのか……?)
セリクがドギマギする。
長は一瞬、戸惑う表情を見せたが、
「……ふふん」
ニヤッと笑うと握手に応じた。
(まんざらでもない……!?)
「私はこの本を読んで育ったんです」
エリューは本を差し出す。
長が本を手に取る。パラパラとめくる。
「……これは、ラグゼルの話だな」
「本当にいらっしゃったんですか!」
「我の祖父に当たる」
「おじいさま、最高ですね!」
長がまた、ふふんと笑う。
「――して、この度は何用で参られた」
「はい、帝国の戦線を共に守ってくださらないか、お願いに参りました」
「帝国が魔物の侵出を押し留めていることは承知している。 必要とあらば我らが戦列に加わることもやぶさかではない」
「――ただしそれは、貴殿らの器量を見極めてからだ」
長は、ライネフとカーツを見る。
「騎士は、そこの二人か」
「はい」
二人が長の前へ出る。
「我々は誇りと忠義を芯に置く。貴殿らの忠義のほど、見せてもらおう」
「まずは我らが剣士と、剣を交えて見せよ」
剣を持ったセントールが二人現れ、前に立つ。
ライネフとカーツも剣を構えた。
セントールたちが剣を振りかざす。
人間相手とは違い、はるか上の方から振り下ろされる剣に、初めは回避一辺倒だった二人だが、段々と剣で受け止め、打ち合いを始める。
ライネフは身軽に剣を振り回し、翻りながら打ち合う。
カーツはライネフより重い剣を扱い、一撃ずつしっかり当てていく。
しばらく打ち合いを眺めていた長が、声を発する。
「――やめよ」
声を聞き、セントール達がバッと後ろへ飛び退く。
「見事。日々、研鑽を積む鋭い刃であった」
ライネフとカーツは肩で息をし、汗を拭う。
「では、問おう」
ライネフに向かい、長が問う。
「そなたが忠義を捧げるは、何者か」
「ガーシュタルク帝国、シェイド皇帝陛下です」
「なぜ、その者に忠義を捧ぐのか」
ライネフは息を整えながら答える。
「それは……」
「陛下が帝国に全てを捧げているからです」
「私は代々騎士の家系で育ち、何の疑問も持たずに騎士団に入りました。そして、戦線を守り続ける陛下の姿を見て、衝撃を受けました」
「幼い頃から戦線に立ち、お父上が落命された時でさえ止まることを許されず、常にその背中に帝国と我々騎士団の命を負っていらっしゃいます」
「我々が休む時間を作るため、ご自身が戦地に立ち続け、戦地から戻れば政務に勤しみ、全てを帝国に捧げて生きておられます」
「そんな陛下を少しでもお支えする、いざという時には陛下の盾となりお守りすると誓いを立てました」
「……よかろう。そなたの忠義、偽りのないものと認めよう」
「では、そこの騎士」
長はカーツを見る。
「そなたが忠義を捧げるは、何者か」
「バルクシア王国、エリュー王女殿下です」
「なぜ、その者に忠義を捧ぐのか」
「……私はまず、王女殿下の母君であるリュシア王妃殿下に忠義を捧げました」
「私の家は反王妃派の筆頭でした。しかし、王妃殿下はそのような事は意にも介さず、親しく接してくださいました。私が忠義を捧げるべきは、この方だと心に決めました。家を捨て、この身がある限りお仕えすると誓いました」
「王妃殿下は、生まれてくる子を守って欲しいと、何度も私に願われました。そして、王女殿下をお産みになり、逝去されました。私は王妃殿下の御心を継ぎ、願いを果たすため、王女殿下を生涯お守りすることを誓っています」
「……よかろう。そなたの忠義もまた、偽りのないものと認めよう」
「我らが共に剣を取るに値する、深き忠義を持つ騎士たちと心得た。我らが一族の勇士を遣わそう」
「ありがとうございます!」
エリューが勢いよく頭を下げる。
「無垢な太陽よ」
長がエリューの方を向いた。
「我らもまた、そなたへの忠義を誓おう」
そう言うと、長は片腕を胸元に曲げ、足を折ってこうべを垂れた。




