第69話 草原にて
「――いよいよ最後の遠征ですね」
エリューはアーカーの執務机の横に椅子を寄せ、座っている。
「はい! いよいよセントール!」
エリューは目を輝かせる。
「私、昔からセントールに憧れてるんです! セントールが出てくる絵本や文献をよく読んで、いつか会いたいと思っていたので、楽しみ!」
「セントールは誇り高く、逞しい一族の印象ですよね。もし力を貸していただけるなら、戦線はかなり安定することでしょう」
「そして、エリュー様」
「セントールの国からお戻りになったら、結婚式の準備が始まります。お心の準備も、お願いしますね」
「あ……」
「そっか、バタバタしてたからすっかり忘れてた。……早いね〜もう婚約式からそんなに経つのか」
「日々が充実している証拠ですね。皆が心待ちにしていますから」
「そうだよね……みんな見たいよね。陛下が幸せにしている姿……」
「ねぇ、結婚式でアーカーにお願いしたい事があるんだけど――」
「――エリュー様、ご準備よろしいですか」
「うん、大丈夫! ライネフ、長旅だけどよろしくね!」
ライネフは、エリューが馬に乗るのを補助する。
「ご一緒できて光栄です。よろしくお願いします。皆さんも、お世話になります」
ライネフは遠征チームの方を見る。
「おぉ、楽しい遠征にしような!」
「よろしくお願いします!」
ルトとリーサが返す。
ライネフも馬に乗り、手綱を握った。
「今回も、実りある遠征になりますよう」
見送りのアーカーが言う。
「土産、期待してるぜ」
レグルスが手をあげる。
「うん、頑張る。陛下によろしくね! 行って来ます!」
みな手綱を引き、セントールの国へ向けて出発した。
「セーントールぅー♪ セントールぅー♪」
エリューが歌う。
「……本当に好きなんですね」
セリクが言う。
「だって! かっこいいじゃない?」
エリューが言うと、リーサとマルサがウンウンと頷く。
「わたしたち、昔からセントール好き」
「珍しいですね」
「そう? 絵本に出てきて、ワクワクしなかった?」
「まぁ……」
「え、そんなもんか」
エリューとリーマルは首を傾げる。
帝国から東南に進み、広い草原に出る。
岩場を探して、野営の準備をする。
カーツがテントを張る。
エリューが焚き火を起こす。
ルトがスープを作る。
リーサがパンを切る。
マルサが食器を出す。
ライネフがグラスに酒を注ぐ。
セリクがご飯を取り分ける。
みんなで焚き火を囲み、干し肉やスープ、パンを食べながら談笑する。
「あれ、姫さまその本」
「そうなの〜図書館から持って来ちゃった」
エリューは膝に置いていた本を見せる。
「セントールのお伽話だよ。王様からの命令で、悪い奴らに連れ去られたお姫さまをセントールが助け出す話」
本の挿絵を見せながら話す。
「おぉー懐かしいな」
「よく読んでましたね」
ルトとカーツが懐かしそうに眺める。
「それは僕も子どもの頃に読みました」
ライネフがスープを飲みながら答える。
「僕、読んだこと無いかも……」
「えっほんと? 読んでみて」
エリューはセリクに本を渡す。
「まぁ、実際、セントールはお伽話感が強いよな」
「本当にいるの? って、思いますよね」
「寝る時どうしてるのか聞きたい」
「エリュー、分かるけど何が失礼か気をつけて聞けよ」
「はい気をつけます」
「……へぇーー」
読み終わったセリクが声を出す。
「かっこいいでしょ」
「……かっこいいですね」
みんなで草原に仰向けになる。
「うわぁ! 星が綺麗〜!」
「おぉーっ」
「今日は雲一つありませんね」
「サイコーー!」
(シェイドも、戦線で星を眺めることあるのかな)
——心地よい春の夜風が草原を抜けていった。




