第63話 ノームの国 帰国報告②
翌朝。
エリューが目を覚ますと、シェイドは居なかった。
リーマルが部屋の扉を開ける。
「あ、起きた!」
「姫さま、おはようございます!」
「熱が下がって良かった!」
「ゆうべのこと、覚えてますか?」
「……シェイドが、いた?」
「きゃーーーそうなんです!」
「戦地から戻られてすぐ、こちらに来られて!」
「ひと晩、ずーっとお傍にいたんですよ」
「明け方、姫さまの熱が下がったので、宮殿へ戻られました」
リーマルは、はしゃいで報告する。
「......そっか、ずっといてくれたのか」
エリューは身支度を整えると、執務室へ向かった。
執務室で、シェイドは政務をこなしていた。
エリューが入ってくると、ペンの手を止めて顔を上げる。
「もう、動けるのか?」
「うん、すっかり元気。朝までついててくれたって聞いた。忙しいのにごめん、ありがとう」
「……ゆっくりする、いい口実になった」
シェイドが目を細めた。
「これが片付いたら、時間が取れる。そこで待っていて欲しい」
言いながら再び机に向かいペンを動かし始め、机の横にある椅子を指差す。
エリューは椅子に腰掛け、シェイドを眺めた。
(久しぶりだなぁ)
(相変わらず、よく働くなぁ)
「……良ければ、旅の話をしてくれ」
書類に目を通しながら言う。
(同時に色んなこと出来るんだなぁ)
(私が暇しないように気遣ってくれてるのかなぁ)
(ずーっと眺めていられるんだけどなぁ)
「……エリュー?」
書類からエリューに視線をうつす。
「あ、わかった。えーとね……」
「バルクシアの南にある小さな村に寄ったら、両親のことを知る人がいて。えっと……少し泣いて」
「ノームの国についたら、みんな好奇心の塊で」
「私の腕輪が魔封じの腕輪と判明して」
「ノームのみんな、学校や魔道装置や腕輪に興味があるから来てくれるって」
「今回は、そんな感じです」
「……そうか」
シェイドはしばらく無言でエリューを見つめる。
「……ガラス園へ行こう」
書類を閉じると席を立ち、エリューに手を差し出した。
二人で手を繋ぎ、ガラス園へ向かう。
途中、騎士団が集まる訓練場のそばを通った。
「エリュー様、お帰りなさい!」
「ありがとう、ただいまー!」
「ノームの人たちも、協力してくれるって! きっともうすぐみんな、少しラクになるからね〜。それまで、頑張ってねー!」
エリューはシェイドに手を引かれ、騎士達に手を振りながら、廊下の奥へ消えていく。
「……見た? 見た?」
「手、繋いでた」
「繋いでた!」
「陛下のあんな姿を見られる日が……! 今まで剣を持つところしか、見たこと無かったのに!」
「泣ける……」
「うん泣けるよっ!」
「エリュー様ありがとう」
「陛下に幸せをくれて、感謝しかない……」
——ガラス園に着くと、エリューが切り出した。
「あのね、村で泣いたのはね」
「母が生きてたら、父と私の関係も違ったのかなって思ったらちょっとこみあげちゃって……でも、今わたし楽しいし幸せだから、大丈夫なんだけどね」
「泣いたことだけ言って理由を黙ってるのは、隠してるみたいだから、伝えておくね」
そう言って顔を上げると、シェイドと目が合った。
「……あぁ、気になっていた。ありがとう」
二人で笑顔を交わす。
雪解けの水の音が遠くから聞こえた。




