第62話 ノームの国 帰国報告①
翌日、エリュー達はノームの城へ向かった。
城には王の他に、沢山のノーム達が集まっていた。
「皆の結論が出たようだ」
王が言った。
「帝国の新しい魔術学校は興味深い」
「ドワーフ製の魔道装置も興味深い」
「そしてお姫さまの魔封じの腕輪」
「帝国に行けば、その腕輪が取られる瞬間に立ち会えるかもしれない」
「ただし帝国は遠い」
「ここにある書庫の本も全ては持っていけない」
「環境が変わるのは研究の妨げになる」
「戻ってこられるかも分からない」
「それらの不安より、知識欲が勝った者が行く」
「荷造りに時間がかかるからすぐには行けない」
「既に行くことを決めている者は……」
ササッと手が上がる。
ざっと20名くらいは手があがっている。
「というわけだ」
「また、帝国で会おう」
「我々の受け入れ体制を整えておいてくれ」
「……あはっ、よく分かりました! ありがとうございます、楽しみに待っています!」
エリュー達は大きく手を振りながら、ノームの国をあとにした。
——帝国に遠征チームの馬車が戻ってきた。
いつものようにアーカーが出迎える。
「お帰りなさいませ……おや」
馬に跨るレグルスが、ぐったりしたエリューを抱えている。
「さっき熱出して倒れちまった。離れに寝かせてくる」
レグルスはエリューを抱えたまま馬から飛び降り、離れへ向かう。
後からリーマルが小走りについていく。
「……遠征も三ヶ国目、疲れが出たのかもしれませんね」
帰国報告は、離れの1階で行われた。
ルトが料理を振る舞い、みんなで食卓を囲む。
「ノームの国は受け入れ時から非常に好意的でした。彼らは知的好奇心が何より大事で、あらゆる物に興味を持っていました」
セリクは食事を始めずに報告を進める。
「魔術学校、ドワーフの魔道装置、そしてエリュー様の腕輪に対し、非常に興味を持っていました」
「――腕輪、ですか」
アーカーがグラスを片手に聞き返す。
「はい、バルクシア王から決して外すなと言われている腕輪が、魔封じの腕輪だったようです。今でさえ常人を圧倒する魔力のエリュー様ですが、腕輪を外すと、想像を絶する魔力が解放されるそうです……」
「ノーム達はこれらの事柄に興味を示し、移住の負担より好奇心が勝った者が、このあと帝国にやってくるそうです。現時点で来る予定の人数は20名でした」
「人間の世界で常識とされる魔術理論を覆す理論が正とされていました。彼らが帝国に来ることで、我々の魔術に革命が起きると想定されます」
セリクはキッチリ報告を終えると、フゥッとため息をついて食事を始めた。
「セリク補佐官、ありがとうございました」
「旅自体は穏やかだったようですが、今後に大きな動きがありそうな事実が沢山出てきましたね」
エリューは離れの2階で一人、横になっていた。
高熱で頭がボーっとする。
——誰かが部屋の扉を開けて入ってきた。
弾んだ息を整えながら、音がしないようそっと扉を閉める。
ベッド横の椅子に腰掛け、エリューの額に手を置く。
北風に当たった、ひんやりとした手。
エリューは視線を向けた。
「……シェイドだ」
自分の重たい腕をゆっくり持ち上げ、額の手に触れる。
「……苦しいのか」
「……もう平気」
シェイドの手を、自分の頬に当てる。
「何かあったのか……?」
「……あったといえば、あったし、なかったともいえる。へへ謎かけみたい」
「……俺に出来ることは、あるか?」
「んーとね、じゃあ……しばらくここにいて」
「わかった」
シェイドはエリューの頬を撫でた。
エリューはうっすら微笑んで、しばらくすると眠りについた。
——静かに扉を叩く音がする。
音もなく、少し扉が開く。
廊下の光が帯となって部屋に入り込む。
「陛下……」
小声でアーカーが声をかける。
「熱が下がるまで、ここにいる」
シェイドも小声で返す。
「分かりました」
短く囁き、アーカーは扉を閉めた。
「――陛下はしばらく付き添われるそうです。私は先に失礼しますね」
アーカーは宮殿へ戻っていった。
セリクも帰宅し、離れのメンバーは荷解きや後片付けを進める。
——シェイドはエリューの顔を眺めていた。
苦しそうに呼吸をしている。
頬を撫で、指先でそっと唇に触れた。
熱い息が指にかかる。
シェイドはキュッと手を握りしめた。
椅子から腰を浮かせ、片手をベッドにつき、体を寄せる。
エリューの前髪を撫であげ、額にそっと唇を触れた。




