第60話 ノームの国①
翌朝になると、辺り一面は銀世界だった。
村の人にお礼を告げ、出発する。
エリューは馬車を引く先頭の馬に乗り、手をかざす。
「……えい」
風魔法で道の雪を掻き分ける。
「……あれ、いま……詠唱しませんでしたね」
「あ、しまった……見なかったことに」
「どういうことですか」
「詠唱は精霊へのお願いの言葉だから、詠唱しないで使う事は最大の侮辱って教わらなかった?」
「教わってないですよ」
「とにかく、失礼なことしてすみませんでした」
「僕に謝られても……」
エリューは遅ればせながら詠唱する。
馬を進めながら雪道を掻き分けて進む。
「……それ、ノームの国まで、魔力もちますか?」
セリクが言う。
「やったことないから分からないけど……とりあえず今のところは平気そう」
速度を落とさず進み、予定より早くノームの国へ到着した。
ノームの国は全てのものが小さめだ。
家も道も城も、普通の3分の2くらいで作られている。
飾り気のない整然とした建物が多い。
左右対称に柱が並んだ几帳面な城が見える。
エリュー達が到着すると、ノーム達はわらわらと現れた。
「人間が来るのは久しぶりだ」
「しかもこんな季節にくるなんて」
「何があったんだ?」
「こんにちは。ガーシュタルク帝国皇帝の婚約者エリューです。お願いがあって参りました」
「おぉ、お嬢さんかなりの魔力だ」
「隣のキミも魔法使いだね」
「風魔法で雪を切り開いたのか、面白い」
「帝国に新しい魔術学校を作るので、知識をお貸しください」
「ほぅ、魔術学校を」
「それは面白い試みだな」
「発展のある話だ」
「ドワーフの発明家が魔道装置も設置してくれるようです」
「魔道装置、魔法で動く装置ということか」
「それも面白い」
「魔術学校に必要な魔道装置となると――」
ノーム達は終始、興味津々の様子で早口に話しかけてくる。
「立ち話もなんだから、城へ案内したらどうだ」
「その通りだ」
「客人を雪の中で立たせておくものではない」
「こちらへどうぞ、お城へ案内します」
城へ入るとノームの王が出迎えた。
「珍しい人間のお客人、雪の中ようこそ」
「国王陛下、ありがとうございます」
「知識を貸してくれ、とのことだな。我々は知ることが喜び、しかし披露する機会はなかなか無いもの。蓄えた知識を存分に披露しよう」
ノーム達はとても好意的に協力してくれることになった。
国で一番広い、魔術研究所へ案内してもらう。
壁には隙間なく大きな魔法陣が描かれ、本棚が整然と並び、沢山の書が詰まっている。
「例えばドワーフの国には、地上から最上階まで移動する箱があったり、荷物を運ぶ魔道装置などがありました。魔術学校にもそんな便利な装置を付けられたらいいなと思います」
「魔法陣で装置の代わりはできないのか?」
「装置に魔法陣が描かれているのでは?」
「装置を見てみないと分からんな」
「帝国まで来てくださるのなら、大歓迎です」
「帝国に行くのか……」
「それは、なかなかの難易度だな」
「ちょっと遠すぎる」
「しかし魔道装置は見てみたい」
「発動、静止条件はどうしてるんだ?」
「実物を見ないことには語れない」
ノーム達はよく喋る。
——セリクは隣のノームに話しかけた。
「あなたは、土属性ですか?」
「ん? わたしが土属性? どう言うこと?」
「あ……てっきり土属性かと……ごめんなさい」
「人間には個々に属性がつくの?」
「あ、そうですね」
「そういうあなたは?」
「木属性です」
「じゃ、お姫さまの属性は?」
「……あの方は全属性です」
「属性無い人、いるんじゃない」
「……あの方は特別で……」
「そもそも、魔力に属性はないでしょ?」
「魔力をエネルギー源にして、各属性の魔術が発動されるんだから――」
(……エリュー様と同じ考え方だ)
「じゃあ……魔術を発動してくれる精霊は、イフリートやドリアードではなく、身近の小さな精霊ですか?」
「ん? あなたは基礎理論を学びに来たの?」
(エリュー様の独自理論は……本当なんだ!)
セリクの胸が高鳴った。




