第59話 シューメルの村②
談話室に残った面々は、しばらく沈黙していた。
沈黙を破ったのはセリクだった。
「……バルクシアのみなさんって、とても仲が良いのに、国王陛下とは凄く距離がありますよね」
「何があったんですか……?」
――ルトが語り出す。
「エリューはな、城に閉じ込められて育ったんだよ」
「城の中で、魔術、剣術、教養、エフォルテにダンス……色んな訓練を朝から晩までさせられながら」
「全くできてない、ダメだと言われながら」
「今でこそエリューは底抜けに明るいが、小さい頃は全く笑わなかったんだぜ。リーサとマルサの二人が、少しずつエリューの閉じた心を開いたんだよ」
「朝食と寝る時間以外は訓練だったから、朝ごはんを3人で食べたり、夜更かしして語り合ったり……」
リーサが口を開く。
「姫さまがね、もう全部投げ出して、消えてしまいたいと言ったことがあったの」
「私とマルサ、必死で止めた。いつかこの城から出て自由に生きよう、自由になったらアレしよう、コレしよう、だからそれまで頑張ろうって」
リーサの目から涙が溢れる。
「ほんと、リュシア様が生きていたら、何か違ったのかなぁ……」
「……国王陛下は、昔から厳しい方だったんですか?」
セリクがルトに聞く。
「いや……昔は穏やかで優しい、よく笑う方だった」
「リュシア様とご一緒の頃は、本当に幸せそうでしたよ」
カーツも口を開いた。
「リュシア様は不思議な方でした。貴族の位を持たない、一般の方のようでしたが、それが不自然なくらい容姿も所作も美しい方でした。国王陛下はリュシア様を心から愛しておられました」
「リュシア様がエリュー様をお産みになって、すぐに亡くなられて……そこから国王陛下はお変わりになりました」
「……じゃあ、王妃殿下を失った悲しみで……?」
「それにしても、閉じこめるとか、訓練を無理強いするとか、ちょっと異常なんだよな……」
「帝国皇妃にするためだったという話もありますが……国王陛下の真意は分かりません」
「……なんでみなさんがそんなに仲良いのか、よく分かりました。エリュー様にとって、みなさんが家族なんですね」
「あぁ、そうだな。今のエリューには俺たちが家族で、離れが自分の家なんだろうな」
——エリューとレグルスが戻ってきた。
「ごめん、みんな、空気悪くして……落ち着いた。ありがとう」
「私、今は幸せだから、もう大丈夫」
「大丈夫ですっ!」
ニッと笑ってみせる。
「おぅ! 俺も最近すげー楽しいぞー!」
「エリュー様が楽しそうにしているのを見るのが楽しいです」
「私も毎日楽しい!」
「私も楽しいです!」
「……僕も、楽しいです」
「お! セリクいいねーはじめの頃は顔に"この仕事やだ"って書いてあったけどなー!」
「えっ! そ、そんなこと……!」
「あー、書いてたよねー」
「すみません!」
「認めた! 認めたよ!」
「いやだっていきなり引越ししないとか――」
——雪が覆う暗闇の中、エリューたちの建物の灯りだけがともっていた。




