第58話 シューメルの村
ノームの国は、バルクシアの南西にある。
誰も確認せずともバルクシアには寄らず、その南にある村を目指して進む。
——畑と井戸が見える、小さな集落が見えてきた。
「のどか、だねぇ」
「宿は……無さそうね」
「村の誰かの家に泊めてもらうしかないね」
リーマルが辺りを見回しながら言う。
「リュシア様!」
誰かを呼ぶ声がする。
エリューがハッとして振り返ると、年老いた婦人が立っている。
「リュシア様……じゃない、ですね」
「はい、違います。でも……似ていましたか?」
「えぇ、そっくりです。バルクシア王国の王妃、リュシア様に」
「リュシア様を……ご存知なんですね」
「昔、お二人でこの村へいらっしゃいました」
老婦人は懐かしそうに微笑み、近くの木に触れた。
「このパジの実を気に入って、お召し上がりになったんですよ。お二人ともとても幸せそうに……」
婦人が触れた木は、冬のせいか枯れ木になっている。
雪が降り始めた。
「……ところで、私達は泊まるところを探しています。どこかご存知ですか」
「まぁ、こんな日に困りますね。村の中央に集会所があります。今夜はそちらに泊まったらいかがかしら」
婦人に言われた村の中央に行くと、木造りの比較的大きな建物があった。
一行は中に入り、雪を落とし、暖炉に火をつける。
雪はだんだん積もり、辺りを白くしていく。
「今夜は保存食祭りだね」
「スープくらい作るよ」
「いえーぃスープー」
「2階の様子見てきまーす」
「風呂あるかな?」
「布団もね」
「2階の暖炉もつけといたー」
「布団と毛布見つけたよー」
「この部屋が一番広いね、談話室って感じ」
みんなは談話室で夕食にした。
干し野菜のスープにパン、干し肉、チーズ、干し葡萄、お酒を用意する。
食べながら、他愛もない話で盛り上がる。
——ふと、エリューが先ほどの老婦人に触れる。
「まさかここで身内を知る人に会うとは思わなかったわぁ」
「まぁ、考えてみたら、近いもんな」
ルトが答える。
「そんなに近いんですか?この村と、バルクシア」
セリクが聞く。
「そうだな、馬で半日かからないんじゃないか」
「……二人は仲良しだったんだねぇー」
「じゃあさ、もしお母様が死ななかったらー、私もこんな風に育てられなかったかなぁー?」
エリューは明るく言うが、みるみる笑顔が崩れる。
手の甲を口に当て、後ろを向いて立ち上がり、
「ごめん……余計なこと言った」
走って部屋を出ていった。
レグルスがサッと立ち上がり、後を追いかける。
エリューは軒下のベンチにうずくまっていた。
レグルスはエリューを毛布でくるみ、隣に腰掛け、 自分も毛布にくるまるとエリューの頭を雑にポンポンとする。
その後レグルスは何も言わず、ずっと隣にいた。




