第57話 ノームの国へ出発前
セリクは魔術研究院にいた。
院長のドールキンの部屋へ入る。
「院長、前に言ってた件ですが……」
「ん! なんじゃったかの」
「エリュー様の腕輪の件です」
「…………おおぉー! そうじゃったな」
(忘れてたんなら、放っておいてよかったな)
「……魔除けの腕輪だそうです」
「ふむ……魔除けか」
「国王陛下から決して外さないよう言い付けられていると伺いました」
「うーむ……」
「エルフの王が、腕輪の石は魔封石だと言っていました」
「魔封石……! そうじゃ!」
ドールキンは本棚へ急ぐ。
奥の高い棚から本を取り出し、頁をめくる。
「思い出した、あの腕輪は "魔力封じの腕輪" じゃ」
「魔力封じ……エリュー様が? それはおかしいです……あの方、絶好調で魔法使えてますから」
「そうじゃな……すると、見間違いなのか……」
「父親が魔力封じの腕輪をプレゼントするのは……おかしいですよね」
「むぅ……やはり、魔除けなのか……?」
「……次はノームの国へ参ります。魔術研究の専門家が揃っているはずなので、機会があれば聞いてみます」
「そうじゃな、頼んだぞ」
——レグルスはアーカーの執務室にいた。
「ノームは文献の限りでは、さほど力は強くないと思うのですが……シーカントの大橋のようなトラブルもあり得ます」
「セントールの国へは、ライネフ隊長に同行してもらいますので、すみませんが今回も同行願えますか?」
政務作業を一段落させたアーカーが、書類を閉じながらレグルスに話しかける。
「もちろん、行きますよ」
「隊の事も、気になりますよね……」
「大丈夫す、副隊長しっかりしてるんで」
「ありがとうございます。レグルス隊長が同行してくれれば、陛下もご安心なさいます」
「……陛下のもどかしい気持ちの分も、しっかり守ってきますよ」
——シェイドは馬房で、馬の手綱を整えている。
その後ろ姿を、エリューはじっと見つめていた。
「今回も、気をつけてね」
声を掛けるとシェイドが作業の手を止め振り返り、
エリューの元へやってきた。
「ノームの国への出発は、明後日だな」
「うん」
「長旅続きで……疲れているだろう」
「大丈夫、よく眠れてるし」
「……」
「……」
「荷造りは、済んだのか」
「うん、殆ど終わったよ」
「そうか……」
「……」
「……」
エリューがそっとシェイドの両手をとった。
キュッと握りしめる。
シェイドはその両手をゆっくりと自分の方へ引き、触れるか触れないかの距離でエリューをふわっと包み込んだ。
エリューはシェイドの胸元にそっと頭をもたれる。
少し早い鼓動が聞こえてくる。
エリューは目を瞑り、鼓動に耳を傾けた――




