第53話 ドワーフの国②
ゴルの家に着くと、弟子らしきドワーフ達は居なくなっていた。
「ゴルー、ただいま。熟成肉の干し肉あげるね」
「ほい、これ。3種類の味付けになってる」
ルトが干し肉を渡す。
「……ほぉぉう。熟成肉?」
「肉を袋で包んで、低温で1ヶ月保存すると、旨味が増えるんだよ」
「おっほぉぉ!」
ゴルは瞳を輝かせ、干し肉を眺めている。
「ねーねーゴル、こういうの、作れない?」
「ん? なんじゃ」
エリューは床に座り込み、ルトにもたれながらフワフワと手を動かす。
「左手の、肘から手首までを覆う、盾」
「ほぅ!?」
「陛下は、盾を使わないの。強いからかな、重たいからかな。でも、相手が剣を持ってたら、受け止められた方が戦いやすいと思うんだよね」
「だから、ゴルの繊細な感じの作りで、こう、硬い金属でさ……」
「ふむふむ」
「編んだようにしたら、軽いよね。それで剣を受け止められないかな」
「いけそうじゃな」
「ほんと? 作りたいなー……」
そういうと、エリューは眠った。
ルトはエリューを背負って宿に戻った。
翌朝。
リーマルに起こされ、エリューはゆっくり起き上がった。
「二日酔いか?」
ルトが声をかける。
「……んー、この、気だるい感じのこと?」
「二日酔いだな」
「昨日のことあまり覚えてない」
「確実だな」
宿の店主にお礼を告げ、ゴルの家へ行く。
「ゴルおはよー、昨日寝ちゃってごめんね」
「エリューちゃん気にせんで良いぞ。わし、楽しかったぞ」
「ね、都市の装置すごいね! 上まで行けたり、荷物運んだり、いろんな装置があるんだね!」
「魔術学校にもこんなの作れたら楽しいのに〜。ここからあっちに物を転送する仕掛け、とかできないのかな。強く風を当てるとか――」
「炎で吹き飛ばすとか?」
ゴルが言う。
「台無しと隣り合わせじゃねえか」
レグルスが突っ込む。
扉を叩く音がして、昨日のドワーフたちがまたやってきた。
「ゴル師匠! 今日も勉強させてください!」
「ゴル、凄い人気者なんだね」
「ただの変わり者じゃ。他にない洒落たデザインだから、若者の心に刺さるんじゃろ」
「ふふ、うん、かっこいいもんね」
「エリューちゃん、王のところへ行くのか」
「うん、手を貸してもらえるよう頑張ってくる」
「またうちに寄っておくれ」
「ありがとう!」
建物の最上階を奥に進むと、たくさんの灯りで囲まれた、小さな城があった。
中へ進むとすぐに玉座があり、ドワーフ王が座っていた。
「はじめまして」
「よく来たな。人間との交流は久しぶりだ」
「素晴らしい都市ですね、感激しました」
「そうであろう。我が国自慢の都市だ」
「帝国の戦線を守るため、協力をお願いしたく参りました」
「ふむ……別に構わんよ。好きなだけ連れていけ」
「ただ、外に出たい者がいればだがな」
「……帝国に、行きたい人ー!」
また宴会場に集まってきたドワーフ達は、エリューの問いかけにシーンとした。
「……ここが最高だからな」
「この便利さに慣れちまうとなぁー」
「ここから離れるのはちょっとなぁ」
エリューはトボトボとゴルの家へ戻ってきた。
「ゴル、断られちゃった」
「ぐははそうじゃろな、ここの者たちはみな、外に興味が無いんじゃ」
大きなリュックを背負いながらゴルが言う。
「わしは行くけどね。帝国」
「えっ! ゴル本当に!?」
「陛下の "腕輪盾"、作らねばな!」
「わ、わたしその話……した?」
「バリバリしとったぞい」
「エリューちゃん、王のところへ一緒に行こう」
「あ、はい!」
再び玉座へやってきた。
王はゴルの顔を見て驚愕した。
「……デリグラム! 帰ってたのか!」
周りにいるドワーフ達がざわつく。
「おう、100年も前に帰っとる。お前さんは "名のない変わった鍛冶職人"など、ついぞ気にも留めなかったな。そういうとこが、わしと合わんのじゃ」
ゴルがため息をつき、辺りを見回す。
「ここには歩みがない。わしが作ったものから、何も生み出されない。あるものをただ直し、使い、どんなに都市が窮屈になっても移動しない」
「弟子たちもじゃ。わしの作品と同じものしか作ろうとせん。つまらんのじゃ」
「わしは帝国にいくぞ。今までにない魔術学校と盾を作りに行くんじゃ。ほいじゃーな」
ゴルは思いを告げると、王に背を向け歩き出した。
「師匠! 僕も行きます!」
「私も連れて行ってください!」
ゴルに付いてきていた弟子達が口々に叫ぶ。
ゴルは足を止めた。
「来たいやつは、自分の力で帝国まで来るんじゃ」
振り返り弟子達に言うと、また歩き出した。
「……学校が完成したら、見に来てくださいね!」
エリューは王に声を掛け、ゴルの後を追う。
——ドワーフ探訪チームは、ゴルを加えて帰国の途についた。




