第52話 ドワーフの国①
シーカントの大橋を渡り、デルガルドの鉱脈を抜け、更に進むと、巨大な洞窟の入り口があった。
「……多分ここが入り口だよね」
「馬車ごと入れる大きさだが……勇気がいるな」
一行はゆっくりと足を進め、洞窟の中へ入っていく。
洞窟の壁の高い位置に、大きなランタンが等間隔でぶら下がっている。
「……あのランタン、凄く高いところにあるね。油の補充のとき、どうしてるんだろ」
「今……そこ気にします?」
セリクが突っ込む。
しばらく進むと、洞窟が大きく開けた。
広大な空間が広がっている。
土製の巨大な建造物が空間いっぱいに立ち並び、数えきれない明かりが灯り、動いている。
「……凄い、地下都市だ……!」
「え、どうするどうする?……どこから行く?」
「真ん中のでっかいとこから責めてみるか?」
「いやーーなんか不安だから隅っこから行こ……」
近くにある、洞穴のような家の扉を叩く。
「ごめんくださーい……」
「……居ないかな」
——随分してから扉が開いた。
「……おぉ、ほおぉ、ほおぉーこれは、人間だな」
ドワーフの男が物珍しそうに言う。
「こんにちは、はい人間です」
「迷われたかな?」
「いえ、お願いがあって来ました」
「話を聞こうかの、入りなされ……」
洞穴の家の中には、入り口からは想像がつかない立派な鍛冶場があった。
丸い土壁には棚が何段も掘られ、とても繊細な作りの武器や装飾品がいくつも置かれている。
鍛冶場の中にはドワーフが10人ほどいて、棚の装飾品を手に持って眺めたり、何かを紙に書いたりしている。
エリューたち全員が鍛冶場に入ってくると、ドワーフたちはギョッとした顔を向けてきた。
「あ、すみません、お邪魔しまーす」
「わし、変わり者の鍛冶職人ゴルじゃ。ここでひっそりと作品を作るのが趣味」
扉を開けた男が名乗る。
「私は、ガーシュタルク帝国皇帝の婚約者で、エリューと言います」
「エリューちゃんか」
「ここにあるのは、ゴルさんの作品ですか?」
「ゴルでいいぞい。そ、わしの作品綺麗じゃろ」
「うんとても綺麗〜! こんな細かな作り、見たことない」
「ぐふふそうじゃろ。で、どうしたのかね?」
「ドワーフの皆さんも、帝国の戦線で一緒に戦って欲しくて。あと、魔術学校を作るので助言が欲しい。と、ドワーフの王様に相談にしに来ました」
「ほぉー面白いのぅ。ゆっくり聞こう。ここに泊まっていかれるか?」
「え、ありがとう。そうしたいけど……ここに7人は泊まれないよね」
エリューは鍛冶場を見渡した。
「無理なことないじゃろ。でも、宿もあるぞ。街の方に」
ゴルが都市の方を指差した。
「人間が行っても、平気?」
「あんたがたみたいな大人数はほとんどこないが、人間は10年に1回くらい、来ておるよ」
「じゃ、とりあえず宿取ってこようか」
「そうだな」
「ゴル、後でまた来てもいい?」
「もちろんじゃ。エリューちゃん」
ゴルの家を出て、みんなで都市の方へ向かう。
「確かに変わり者っぽかったですね」
「自分で言うだけのことはあるな」
セリクとルトが言う。
「中にいたヒトたちは、お弟子さんかな?」
「そんな空気出してましたよね」
リーマルが言う。
——大きな都市は土で作られた建物が重なり、大きな蟻の巣のように見える。
出入り口の穴が無数に空き、たくさんのドワーフが行き交っている。
「あ! あれダガットが言ってた、
"最上階に行ける箱"じゃない!?」
都市の一番下から、勢いよく上昇する灯りが見える。
エリューたちは、その灯りが降りてくるところへ走った。
全員、箱の中に入る。
箱の内側には三角のツマミが1つ付いているだけだ。
「これで上下するようですね」
「カーツ、回してみて」
カーツがつまみを回すと、箱は勢いよく上昇した。
みんな声をあげる。
箱は最上階で止まった。
「こ、これは怖いですね……」
「扉がないから、落ちたら終わりだな」
「降りる時は人数半分にしよっか……」
最上階から建物の中を巡る。
食料や衣類などの店が並んでいる。
中ほどまで降りてくると、宿らしき作りの店を見つけた。
「7名、宿泊できますか?」
遠征で宿手配はすっかり慣れたルトが言う。
「おおぉ!? こりゃ珍しいな! 人間の団体さんか!」
店主は驚き、カウンターから身を乗り出す。
「なかなか外から客が来ねえからよ、久しぶりに本業できるってもんだ! どーんと泊まってけ!」
「これが荷物だな?」
各々が持っている皮袋をひょいひょい集め、一気に肩に背負う。
「寝室はこっちだ」
奥の部屋へと向かう。
広く掘られた部屋に、木で出来たベッドの枠がいくつも並んでいる。
「寝るまでに整えておくからよ。まぁーゆっくり飲んで食っていってくれよ!」
皮袋をドサリ! と部屋の床に置き、周りのドワーフに宴会の声掛けを始める。
あっという間に隣の広間がドワーフと酒と食べ物で埋まった。
「これ食ってみろうまいぞ!」
「ほんとだうめぇ」
「がはは、そうだろう!」
レグルスは大柄のドワーフ二人に挟まれて色々勧められている。
「すごーい、沢山具が入ってるね!」
「なんか、かりかりした実」
「かりかり、入ってたね、あと、干し葡萄!」
「パジの実も入ってる!」
ドワーフの夫人が焼いた、丸くてボコボコしたお菓子を頬張るエリューとリーマル。
「なんだ、この干し肉!」
「こんな美味い干し肉は、食べたことがないぞ!」
ルトが干し肉を振る舞い、ドワーフ達が驚愕している。
「この都市の道具はみんな、伝説の発明家デリグラムが作ったんだ」
「魔法を貯める装置とか、つまみひとつで発動する仕組みとかな」
「ただ、どれも設計図が残ってねぇんだ」
「簡単な修理ならできるが、壊れたらもう作れない」
「だから、大事に使えよ」
カーツとセリクは都市の話を聞いている。
——ドワーフの強い酒を飲んで、エリューはフワフワしてきた。
「あ、ゴルとお話するはずだったのに……干し肉、持って行ってあげなきゃ」
立ち上がると、フラフラ不安定に歩く。
ルトが肩を貸す。
「こらー、飲み過ぎだぞー」
「あ、ルト。干し肉をゴルに届けてくる」
「いいよ、一緒に行くよ」
宴会場を出て階段へ向かう。
「この状態であの箱は危ないから、歩いて行くぞ」
「お前、酒は飲み始めたばっかなんだから調子乗って飲んだらダメだぞ」
「へへへ」
「何笑ってんだよ」
「たのしい」
「そりゃ何よりなんだけどー、ダメだぞ。酒飲む時は、ちゃんと水も飲む」
「はぁい」
ルトはため息をつき、ほとんどもたれかかるエリューを支えながらゴルの家へ向かった。




