第五話 試験①口頭試問
第一回試験の日。
皇妃候補者たちは宮殿の"円卓の間"へ集められていた。
エリューは円卓の間の扉を開けた。
中には既に数名の候補者たちがおり、皆一斉にエリューの方へ視線を向けた。
(うわぁ……こわい)
軽く会釈をして部屋に入る。
ヒソヒソと自分の話をされている気がする。
(……気のせいだ!)
頭の中の不安を吹き飛ばし、円卓に着く。
隣の席の候補者が声をかけてきた。
「はじめまして。ソリュード王国のレーラです」
(あ……内乱で大変なところだ……)
「はじめまして。バルクシア王国のエリューです。緊張しますね」
「ほんと、さっきから手が冷たくて全然温まらないです」
室内は静かだ。
他にも会話している候補者たちはいるが、二人は小声でやり取りをした。
「レーラ様はいつ到着したんですか?」
「私は5日前です。エリュー様は?」
「おととい着きました」
「じゃあ……いきなり試験ですね」
「そうなんですよ。口頭試問ってどんな試験なんでしょう?」
エリューはレーラと会話をして、少し心が落ち着いた。
ほどなく、アーカー宰相が部屋に入ってきた。
「皆さま、お待たせいたしました」
アーカーも円卓の席へ座る。
「では、早速試験を始めましょう」
「皇妃候補の皆さまは6ヶ国、7名お越しです。アルメデス、エデュバラ、シーカント、ソリュード、バルクシア、そしてガーシュタルクから2名」
アーカーは候補者の顔を順に見る。
「さて、これから他国紹介をしていただきます」
「自国のことは皆さまもちろんお詳しいことでしょう。今日はそれよりも、皆さまが他の国々にどのくらい関心がおありなのか見せていただこうと思います。——そうですね……」
ニコッと笑い、指で"3"を示す。
「このくらい、教えていただきましょうか」
(他国について3つずつ情報を提示……6ヶ国だから......18!? 結構しんどい!)
「では……バルクシアのエリュー様からお願いできますか?」
(ひぃ、一番手!)
「少し考えていただいて構いませんよ」
エリューは各国について頭を巡らせた。
(シーカントは最近、巨大な橋を完成させて話題になってる。みんな知ってるレベルの話だから、無難なセンかな?)
(いや、一国につき3つも情報出さなきゃいけないのよ? 私が使った情報は後の人が使いにくい……的確な情報は避けなきゃ、みんなの点が下がる!)
(あまりバカ過ぎず、でも的外れな回答……よし!)
エリューは顔を上げた。
「はじめていいですか」
アーカーはどうぞと手の平で指し示す。
「私からは――」
一度咳払いをする。
「各国のスイーツをご紹介します!」※
——候補者の数名から苦笑いの漏れる声が聞こえる。
「一つ目は【クレーパ】です。シーカントの国民的スイーツですね。クリームとパジの実が絶妙な相性ですよね!」
「二つ目、ルビーの雫です。昨年話題になり、帝国の城下町にも売っていましたが、シーカント発と伺っています」
「三つ目、パジュマロです。ふんわり柔らかくて、独特の食感がたまりません。また、焼くと別物に変身するのも楽しいです」
——エリューは各国のスイーツを3つずつ紹介していく。
自国のことを言われた候補者はクスリと笑ったり、うなずいたりしている。
「ソリュードは……」
(二つは知ってる……でもこの数年は内乱でスイーツどころじゃない……)
庶民の家庭菓子として定番のチュッキー、ピツケットがソリュード発祥と紹介しながら、高速で脳内検索をかける。
(……ダメだ、これしか浮かばない)
「三つ目は……ホーストンの滝です」
「昔、本で読んだことなので本当かどうかはわかりませんが……恋人とホーストンの滝に訪れると、永遠に結ばれるという伝説があります」
「……甘いですね! 以上です!」
候補者からパチパチと拍手が送られる。
(甘いですね! って……はずかし!)
バツが悪いエリューは机を見つめたまま、顔を上げられなかった。
——拍手が止むとアーカーが口を開いた。
「エリュー様、素敵な発表をありがとうございました。ご自身がお好きなスイーツの紹介、楽しく拝聴いたしました。しかし……」
(うん、しかしだよね)
「——私の説明が悪かったですね! 各国3つずつではなく、三ヶ国くらい紹介してもらおうと思ったのです」
「!?」
思わずパッと顔を上げてしまう。
アーカーはニコニコこちらを見ている。
「統一したテーマで括り、素晴らしい知識量と対応力でしたね。恐れ入りました」
(……しまったぁぁーーーー)
的は外したものの、的を覆うほどの矢を放ってしまった。
エリューは両手で顔を覆い、再びテーブルに突っ伏した。
※注釈
【クレーパ】クレープによく似たスイーツ
【パジの実】いちごによく似た木の実
【パジュマロ】いちごマシュマロによく似たお菓子
【チュッキー】クッキーによく似たお菓子
【ピツケット】ビスケットによく似たお菓子




