第四話 アーカー宰相
「――城下町はいかがでしたか?」
テーブルに腰掛け、書類を準備しながらアーカーが話しかける。
「楽しかったです!」
「お目当てのものは手に入りましたか?」
「残念ながら、どのお店のスイーツも売り切ればかりで……でも話題のスイーツが一堂に会している街なんて感動でした!」
そうでしたか、と微笑み、書類を渡す。
「こちらが試験の日程です」
エリューは受け取った書類に目を通す。
「第一回試験は……口頭試問?」
「はい。明日の午後に行われます」
「わぁ」
「バルクシアは遠方でしたから、到着早々で申し訳ありません」
「いえ、早く着いた方はずっと待ってたんですもんね」
「お互いの自己紹介も兼ねた、簡単な試問ですので、あまり構えずに臨んでください」
次の書類を渡される。
「続いて各分野の練習場所です。試験期間中はエリュー様専用にしてありますので、お好きな時にご利用ください」
(訓練場に、奏楽室……これを候補者全員分を用意してるってことだよね……城でっか)
「また、武術や剣術などは練習相手が必要だと思います」
アーカーがうしろを振り向く。
奥に控えていた二人の男がテーブルの前に来た。
「帝国騎士団 第三隊長のライネフです」
「帝国武術団 第一隊長のレグルスです」
「彼らがお相手します。練習の日は必ず城内に居るようにいたしますし、それ以外でも必要な時はお声がけください」
(隊長をいつでも呼べるなんて……贅沢!)
「そして、希望参加の項目なのですが……実際に開催される試験はこのように決まりました」
3枚目の書類を受け取り、眺める。
(……ん? ずいぶん減ってる……)
「エリュー様がご希望された項目で、他の方がご希望されていないものは削除いたしました。……競う相手がいなければ試験する必要もないかと」
(……えぇぇーみんな受けないの?)
「その代わり、エリュー様のみご希望された項目は全てエリュー様への加点といたします」
(な、なんだってぇぇぇ!?)
戦わずして得点を増やしてしまった。
落ちたいエリューにとって、これは痛い誤算だ。
「あの……本当はできるのに、謙虚に手をあげなかった方もいるかもしれません。私、全然自信がないのに印をつけてしまって…………不公平ですから、加点はしないでください」
しどろもどろに言葉を紡ぐエリューを、アーカーはじっと見つめる。
「……試験ですから、ご自身ができることを全て出し切るのは良いことです」
「できていると言えないほどのものもあります」
「左様ですか……ならば」
ポンと両手を合わせるアーカー。
「やっぱり見せていただきましょう!」
(えぇぇぇぇ……)
「各試験の合間に少しずつ実施していきましょう。
その予定は追ってお伝えしますね」
(自由時間がなくなっちゃうーー!)
「——では、明日はよろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をし、アーカー、ライネフ、レグルスは去っていった。
「……ふぅぅぅーー!!」
緊張の紐が緩み、みな一様に息を吐いた。
「帝国宰相が来るとは思わなかったな」
「スウィフトさんどうしたんだろ」
「姫さま、忙しくなりそうですね」
「あぁースイーツが遠ざかるー」
「明日の試験の対策、します?」
「そうだよね……なに聞かれるんだろ」
「とりあえずメシにしようぜ。ほいテーブル片す」
「自国の歴史や政治についてとか?」
「それだとあまり的外れなこと言えないよね……」
「的外れようとすんな。国王命令 "全力で挑め"だろ?」
「的外れたいんだってば。でもあまりバカだと国の評判下げちゃうから、全力でギリギリアウトを狙うよ」
エリューたちの離れはその後、夜更けまで灯りがともっていた。




