第三話 街巡り
マルサの体調はすっかり回復し、テキパキと仕事をこなす。
「レグラン菓子店は?」
「今日は定休日でした」
「テラトリールは?」
「予約は受け付けていないそうです」
「びっくりするくらい並ぶらしいですよ」
ドレスから普段着へ着替えるエリューを手伝いながら、リーサ・マルサが答える。
「そうなんだーー……でも、折角の帝国スイーツ巡りのチャンス、何かひとつくらい食べたいよね……!」
「並ぶとなると、スウィフトさんが来る夕方までに帰れるかが問題ですね」
「どうする? 街を回って美味しそうなお店を探す? それともはじめからテラトリールで並ぶ?」
「あーー難しいですね」
「難しいです! でも、折角の今日の思い出が並んだことだけになるのは悲しいです……」
「……それだ! 並ぶのはナシだね! よし、いこー!」
エリュー、リーサ、マルサの3人はキャタキャタしながら城下町の方へと消えていった。
残されたのは護衛騎士のカーツと、料理人のルトだ。
「……嬉しそうでしたね」
武具の手入れの手を止めて、カーツが呟いた。
「国から出たの、はじめてだもんなぁ」
夕飯の支度をしていたルトは、玄関を見つめながら目を細めた。
「キャーあそこの赤いの[ルビーの雫]じゃない!?」※1
「ほんとだ! 実際こんなちっちゃな粒なんだー!」
「あ! やば隣のお店バヌージャだよ!」
3人は腕を絡ませあい、賑やかに街を進んでいく。
誰も見ていないところでは、二人は王女に敬語を使わない。
「あぁぁーー帝国の街すごいっ! 話題のものが全部揃ってる!」
「でも売り切れか、長ーい列しかないっ」
「昼前に来ないとダメかもねー」
3人は既に次のチャンスへ望みを託しはじめている。
「試験のスケジュール次第で、午前中に動けるかな」
「練習もあるでしょ?」
「ちょっとくらいサボっても……」
「姫さまが練習場所に居なかったら、騒ぎになるかも」
「そだよねぇ……」
「……んーーまいっか![自由になったら]で!」
「うんうん[自由になったら]ね!」
——太陽の光がオレンジがかってきたころ、エリュー達が滞在する離れの扉を叩く音がした。
カーツが扉を開ける。
「お待たせいたしました。試験の詳細をお伝えに参りました」
上等な服を着て、金髪を束ねた男だ。
後ろに騎士と拳士を連れている。
カーツは困った顔をして答えた。
「申し訳ありません……エリュー王女はただいま留守にしております」
「……どちらへお越しなのですか?」
「侍女と城下町へ出かけておりまして……」
「城下町……いつごろお戻りの予定ですか?」
「使者様がお越しになる夕方までにはと……」
自国の王女が外出して帰宅時間が決まっていない。
護衛騎士と思われる人間がそばについていない。
「――よくあることなのですか?」
「はじめてです」
「つまり、あなたは今……とても慌てている?」
「いえ……使者様をお待たせしてしまい、申し訳なく思っております」
金髪の男は少し考え、
「わかりました。では夜に出直して参ります」
スッと整った笑顔に戻り、宮殿へと戻っていった。
エリュー達が帰宅したのは、日が暮れてからだった。
玄関の扉を開けると、ルトが腕組みして立ちはだかっていた。
「ご、ごめんなさいーーどうしても見に行きたいお店があって、ちょっと遠かったから……」
「あのなぁ、初めての街歩きだし楽しめるように緩くしてやってんだから、ちゃんとしろ」
「はい、すいませんーー」
「使者の方に聞かれても何も返せないカーツ、可哀想だったぞ」
「カーツ、ごめんなさい」
「リーサマルサも、楽しむのはいいけど仕事はしっかりしろよ」
「申し訳ありませんでした!」
ルトはフゥッとため息をついた。
「で……お土産は?」
「は! なんかよさそうなワイン見つけて参りました」
「おーなんかよさそうだな、許してやろう」
「ありがとうございまーーす!」
説教が一段落した絶妙なタイミングで扉を叩く音がした。
エリューが扉を開けると、先程訪問してきた金髪の男だ。
「お帰りでしたね、良かった」
「こんばんは! すみませんでした、二度もお手間をかけさせてしまって……バルクシア王女のエリューです」
「いえ、無事にお戻りで何よりです。試験の詳細をお伝えに参りました、私はアーカーと申します。この国の宰相を務めております」
「宰相……!」
※1 【ルビーの雫】真っ赤な飴を宝石型の瓶に詰めたお菓子




