第49話 旅の菓子商ダガット
エリューとリーマルの3人は小高い丘の芝生の上でゴロゴロしている。
「はー、長旅の大変なところは、お尻だよねー」
「ずーっと馬に乗ってると、体が凝るよねー」
「ドワーフの国へ行く時は、荷台のスペースに寝っ転がれる隙間空けとこー」
「あと荷台のヘリの部分に座れるようにしてさー」
「あ、姫さまセリク」
「ほんとだ」
丘のふもとにセリクが近づいてくる。
エリューは起き上がり、丘を駆け下りた。
「どしたのー」
「エリュー様、"旅の菓子商ダガット"という者がお目通りを希望しています」
「ダガット!?」
エリューの顔が途端に笑顔になる。
「ねぇーー! ダガットが来てるってー!」
丘の上のリーマルに向かって叫ぶ。
二人とも急いで起きあがり、丘を駆け降りた。
城門の前には小麦色の肌をした初老の男が立っていた。
走ってくるエリューに気がつくと、満面の笑みで手を振った。
「おおぉーー姫さま、お久しぶりです!」
「ダガットぉぉぉぉーー!」
走ってきてそのまま抱きつく。
ダガットは2、3歩後ろへ下がったが、倒れることなく受け止めた。
「お元気そうで、何よりです」
「ダガットも元気そうだね!」
「はい、このとおりです」
「リーマルもいるよ! ほら」
「お久しぶりですーー!」
「おぉぉ、みなさんお元気で何よりです。そして、ガーシュタルク皇帝陛下とのご婚約、誠におめでとうございます!」
「へへ婚約しちゃった! ありがとう〜」
ダガットは宮殿を手差しした。
「お祝いも兼ねて、沢山お菓子をお持ちしました」
「きゃあぁぁーやったーー!」
エリューたちはダガットと共に宮殿内の客室へ移動した。
部屋の扉を開くと、テーブルには品物が山盛りに積まれている。
「えぇぇ! こんなに沢山持ってきたの!?」
「各地を回って集めてきました。姫さまがお好きだった物を中心に」
「あぁーこのお菓子懐かしい、よく持ってきてくれたよね。あ、こっちはルビーの雫だね!」
「ルビーの雫は、実はさっき帝国で買い付けたものです」
「初めて持ってきてくれた時、暑さで全部溶けちゃってたんだよね」
「ははは、覚えてましたか。そうそう、シーカントで仕入れたんですが、真夏だったので雫ではなく塊になってしまったんですよね。あれは大失敗でした」
「でも凄く綺麗だった。しばらく飾ってたんだよ!」
エリューたちは様々なお菓子を手に取りながら、懐かしい思い出を振り返った。
「そうそう、お菓子の豊富なシーカントで、新しいお菓子が話題になっていましたよ」
「シーカントは次の遠征で通る予定なの。なんていうお菓子?」
「メクレナ※です。日持ちしないのでお持ちできませんでしたが、今度お越しになるならぜひお試しくださいね」
「へぇ、現地でしか食べられないのかぁ」
「必ず予定に組み込みましょう」
「こないだ、エルフの国へ行ってきたんだ。ダガットは、行ったことある?」
「西の森を散策してみたことはあるのですが……残念ながら、まだ機会に恵まれておりません」
「ドワーフの国は?」
「それでしたら、交流経験がございます」
「そうなんだ! どんなところ?」
「驚かれると思いますよ。1階から最上階まで一気にあがれる不思議な箱がございます」
「……な、なにそれすごーーい!」
——ダガットはドワーフの国の話を聞かせた。
幼いエリューにも、こうして世界各地の話を聞かせてきた。
バルクシア王から生きた知識を教えるよう依頼を受け、定期的にバルクシアへ足を運んでいた。
初めの頃は全く笑いかけてくれなかった。
各国の情報を面白おかしく伝えたり、珍しい菓子を手に入れたりと工夫を凝らして距離を縮めていった。
国から出たことのなかったエリューと帝国で再会し、自らが未踏の地の話を聞くことになるとは。
ダガットは感慨深い思いを抱き、目を細めた。
「来てくれてありがとうダガット。これからは時々帝国に会いに来てね。宰相に沢山取引してね! って言っとく」
「もちろんです。次回も沢山のお土産をお持ちしますからね」
ダガットは恭しく礼をすると、城下町へ戻って行った。
「……だから世界中のお菓子に詳しかったんですね」
セリクは腕組みし、腑に落ちた顔でエリューを見た。
「うん、世界の色んなことをダガットが教えてくれたんだ。今この国でこんなことが起きてるとか、このお菓子はどこの国のもの、発祥はどこで、どうやって渡ったか、とかね。だから食べた事ない生菓子にも詳しいの! あはは」
「ドワーフの国は、文献とは随分違いそうでしたね」
「そうだね、凄く不思議な雰囲気だった! 楽しみになってきたね〜次の遠征の準備しなきゃね!」
エリューは軽い足取りで宮殿へ戻っていく。
セリクはその後をゆっくりとついていった。
※【メクレナ】エクレアによく似た菓子




