第47話 エルフの国②
"夕餉の席"はエリューと王の二人だけが席についた。
部屋の奥で4人の音楽隊が弦楽器を奏でているが、同席するエルフの姿はなかった。
「エルフが人間と同席するなど、本来有り得ないことだ。今宵は特別な席だ」
小宴の間、という大きさの部屋は、薄紫の幻想的な光で照らされている。
エリューは植物のツルのようなデザインの椅子に腰掛ける。
セリクは部屋の隅に立った。
エリューはエルフの王から注がれたワインに口をつける。
(薄めだな)
「……下品な味だが、悪くないな」
王はエリューが献上したワインを飲んでいる。
「シーカントに大橋がかかり、デルガルドの新しい鉱脈へ行きやすくなったんです」
「そうか、今までにない経路の往来があると思ってたが……橋ができていたのか」
「新しい鉱脈は黄色い水晶が豊富にあるそうです」
「黄水晶……シトリンだな」
「お前は、どんな宝石が好きなんだ」
「宝石は全く無知で……」
「その指輪の石は何だ」
「あ、これ……確かに、何でしょう?」
「腕輪の石は魔封石だな」
「……へぇ〜よくご存知ですね」
(魔除けの石かな)
王が手をあげると、音楽隊がダンスの曲を奏でる。
「踊ろう」
(えっ、本気?)
王と部屋の中をダンスする。
光がこぼれるように見えるエリューの姿を、音楽隊が演奏しながらチラチラ気にしている。
「……人間にしては上出来だな。明日も話を聞かせてもらおう」
――帰り道、ある程度離れたところまで来ると、セリクがたまらず話しかける。
「……めちゃくちゃ狙われてるじゃないですか!」
「……んー? そうか〜」
「愛人として囲う気満々の顔ですよ」
「人間風情が、って見下してるのに?」
(こんなの……とても陛下に報告できない!)
"外れの地域"に帰ると、小屋に沢山のエルフ達が訪れて盛り上がっていた。
「おぉ、おかえりー」
「外交はどうだったよ?」
「おぉーこりゃべっぴんさんだ」
「王が気にいるのも仕方ない」
「なになに! すんごい楽しそうじゃんいいなー!」
「みんなワイン気に入ってくれたぞ」
「お嬢ちゃん、うまいなこのワイン!」
「でしょでしょ! エルフのワイン、うっすいね!」
「コラ、言い方に気をつけなさい」
「すいません。上品なお味でした」
「がはは、これ飲んでたら そう感じるだろな!」
ドワーフとエルフのハーフと思われる男が豪快に笑う。
「パピルキーしよ」
「なにそれ」
「このカードを最後まで持ってたら負けで――」
――小屋では夜中までわいわいと宴が続いた。
翌日。
エリューはフィンに、エルフの国の戦線を案内してもらった。
「混ざり者組だから、みんな色々出来る」
戦線には剣を持つ者、斧を持つ者、弓を引く者など様々だ。
「魔術は全員使えるけど、ハーフエルフは3属性だ」
「純血のエルフは全属性使うけど」
「それは、ルールみたいなもの?」
「お前達は、全部使っちゃダメー、みたいな」
「いや、才能の話」
「……多分それ、思い込みだよ」
「精霊は中間管理職でさ――」
(出たな、ドリアード管理職説)
「――そして思い込みを取っ払ったら火を起こせた、木属性のセリクがここにいます」
エリューはセリクの両肩に手を置いた。
「いや……話半分でいいですよ。この人、全属性一挙大公開できる特別製ですから」
「え、同時に別の属性魔法を発動できるのか?」
「意味がわからん、どういうことだ?」
「やってみせてくれ!」
「……えーと、こんな感じで繋いでみせたのね」
魔術試験の時の、一連の流れを見せる。
「おぉぉーーー!」
戦線の面々が歓声を上げる。
「ここで何をしている」
エリューが振り返ると、エルフの王が立っていた。
「今日も城へ来いと言ったのに――ここで何をしている」
「戦線視察です。城はこの後伺おうと……」
「来い」
王はエリューの腕を引っ張り、城へ向かって歩き出した。
「着替えさせろ」
小さな部屋にエリューを押し込み、侍女に命令する。
――エリューはエルフのドレスを着せられ、玉座の間へ連れていかれた。
王は足を組み、高壇からエリューを見下ろす。
「よし、いいだろう。帝国との防衛協定を結ぼう」
「えっ」
「――ただし」
王は頬杖をつく。
「お前をもらう」
(ほらきたーーー!)
セリクが心の中で叫ぶ。
「すみません……それは、お断りします。わたし、皇帝陛下の婚約者ですから」
「破棄しろ。お前が残れば帝国は安泰だ。俺の元にいた方が不自由なく暮らせるぞ。お前が名も知らぬ美しい宝石で飾ってやろう」
「……格別のご配慮、痛み入ります。ですが、陛下と約束しているので、帰ります」
「――ならば交渉の余地はない。帰れ」
「はい、失礼します。……気が向いたら、いつでも帝国に遊びに来てください。ワインをご用意して、お待ちしています」
エリューは美しく腰を落とし、玉座の間を出て行った。
「……これでいいと思います。あいつの愛人は、ちょっと、きついです」
「あはは、色々してあげたいタイプなんだね。宝石好きな子とは相性良さそうだけどねー」
"外れの地域"の小屋の扉を開く。
中にはルト達の他に、昨夜のエルフ達が集まっていた。
「おっ? なんだそのドレス」
「残念ながら交渉はうまくいかなかったよー。でも、"外れの地域"のみんなと仲良くなれて、楽しかったね!」
「そうか、まぁー仕方ないさ」
「無理すると王の愛人にされそうでした」
「わっ、やべぇな。引き際が肝心だ」
「じゃ……帰ろっか」
エリューは"外れの地域"のみんなの方を向く。
「みんな、楽しかった! ありがとう!」
「エリュー様」
「俺たち、行くよ。帝国」
「……えっ」
「"外れの地域"みんなの意思を確認して、準備できたら帝国に向かうよ」
「あんな美味いワイン知っちまったらな」
「うそーみんな……本当に!?」
エルフ達はみな頷いた。
「よかった……ありがとうっ!」
「森に住める場所、急いで作っておくから。こんな雰囲気の、素敵なの!」
「みんなが来るの、楽しみにしてる! またね!」
"外れの地域"のみんなに手を振り、一行は帝国への帰路についた。




