第43話 エルフの国へ遠征出発
「――よし、できた。カーツ、これ馬車に乗せてくれる?」
荷造りを終え、1階に降りるとレグルスが待っていた。
「よぉ、おつかれ」
レグルスはテーブルに着き、マルサが淹れたお茶を飲みながら片手をあげる。
「あれ、来てたんだ、待たせた?」
テーブルの向かいの席に座る。
「いや、気にすんな。俺は明日の朝から戦線だから、先に挨拶な」
「そか。ありがとう」
マルサがエリューのお茶を持ってくる。
「いよいよ明日出発だー」
「約2ヶ月は、長旅だよな」
「うん、いい結果を持って帰れるといいなぁ」
二人で紅茶を飲む。
「エルフの国か――」
「いけすかない奴しかいなそうだな」
「綺麗なヒトしかいなそうだなー」
「……」
「……」
「あ、ごめんね、心の透明度の差が出ちゃって」
「お前……エルフに騙されちまえ」
「ひど……もうお土産買ってこない」
「すいません。エルフの酒飲んでみたいす」
「……ぷっ」
二人で笑う。
「一緒に行ってやろうか」
「ね、うん。それも考えたけど――」
「陛下が "背中を預けられるのはレグルスだ"って言ってたからね。いつも通り陛下の背中を守って欲しいな」
「……そか。わかった任せろ」
「任せる!」
「そいじゃ、気をつけて行ってこいよ」
「レグルスもね! ありがとう」
夕食時間の少し前、シェイドが離れへ訪れた。
「少し、時間あるか?」
「もちろん、あります!」
二人で宮殿へ足を進める。
回廊を木枯らしが通り過ぎた。
「今日の夕飯は私の好物、たくさん出してくれるんですって! 帝国料理しばらくお預けだから」
回廊を歩きながらシェイドに話しかける。
「そうか。たくさん食べるといい」
シェイドはエリューを、見晴らしの良い大きな窓がある"展望室"に連れてきた。
「わぁ、城下町がよく見える!」
窓の外には赤紫の夕焼けと、城下町のたくさんの灯りが見える。
二人は並んで景色を眺めた。
「この、ずーっと先に行くんだね」
エリューは、窓の正面を指差した。
「そうだ。ずっと南下して、西へ向かう」
シェイドも窓の向こうを指差した。
「途中にエデュバラがあるから、アステナ様に会ってこようと思って! 砂神祭、終わっちゃったかなー。ね、砂神さまの話、ほんと面白かったよね! わたし、みんなに話しちゃったもん。あの面白い国王様にも会えるかなぁー」
テンポよく話題を出していくエリュー。
エリューを見つめながら、時々返事をするシェイド。
「あ、そろそろご飯だね。いこっか!」
手を繋いで食堂へ向かう。
「あー熟成肉だ! やった!」
エリューは前菜からずっと大当たりのメニューに、毎回やったと告げる。
「これで2ヶ月頑張れる〜」
嬉しそうに口に入れる。
シェイドは食事を進めながら、目を細めてエリューを見つめる。
——食後、二人はガラス庭園を散歩した。
「南の方に向かうから、今より暖かくなるかな」
「そうだな」
「帰ってくる時は、帝国はもっと寒くなってるね! あ、帝国は結構雪、降るの?」
「年によるが、よく積もる年もある」
「そっかぁー、冬の戦線は、大変だね……」
「シェイド——気をつけてね」
シェイドが足を止めた。
「エリュー……」
「ん?」
「もし、交渉がうまくいかなかったら」
「うん」
「無理せず帰還するんだ」
「うん、分かった」
「不穏な空気を感じたら、すぐ退避してくれ」
「うん」
「退路はちゃんと確保して……」
「……うん」
シェイドがため息をつく。
「やはりレグルスを連れていけ」
「ダメだよ、2ヶ月も隊長を引っ張り出せないよ」
「…………」
「……心配してくれてるんだね、ありがとう」
「凄く気さくなヒトたちかもしれないし! 私、結構強いし、カーツも強いし、セリクがついてきてくれるし、大丈夫だよ!」
「…………」
シェイドはエリューの手を強く握り、額に当て、かたく目を瞑った――
翌朝。
エリューたちは離れの外で出発の準備をしている。
カーツは積荷を積んだ幌つきの荷馬車に紐を括り付けている。
ルトは馬の準備をしている。
セリクは地図を眺めている。
リーマルは離れと馬車をバタバタ行ったり来たりしている。
「おはようございます。いよいよ出発ですね」
アーカーとシェイドが歩いてきた。
「おはようございまーす! 晴れて良かった〜」
エリューが二人へ駆け寄る。
「長旅ですから、道中 決して無理せずですよ。疲れたら、早めに休憩を取ってくださいね」
「はい!」
「手土産、何にしたんです?」
「帝国のワインと、干し葡萄です!」
「ふふ、エリュー様らしいですね」
「2ヶ月もエリュー様とお会いできないのは、寂しいですね」
「私も寂しいです!」
「外交のコツは、違和感を逃さないことです。そのままのエリュー様でいることが、私は一番強いと思っています」
「分かりました。気負わず、いってみます」
「頑張ってきますね! いってきます!」
バルクシアチーム+セリクの一行が、エルフの国へ向けて出発した。
「――自由を見守るのは、覚悟も必要だな。母の気持ちが、少し分かった」
「――そうですね。自分が戦地へ赴くより、相手の無事を待つ方が、もどかしい気持ちを抱くのかもしれません」
「……大丈夫です! エリュー様は必ず無事に戻られます」
「あぁ、そうだな」
二人は馬車の方角を見つめた。




