第40話 皇帝の母親
「姫さま、お手紙が届いてますよ〜!」
リーサが跳ねながらエリューの元に手紙を持ってきた。
エリューは手紙を受け取り、じっと目を向ける。
うす青に染められた綺麗な封筒に、濃い青の封蝋が押されている。
「ソリュードの紋章……レーラだ!」
ウキウキと封を開け、手紙に目を落とした。
――エリュー様へ
改めて、ご婚約おめでとうございます。
その後、お変わりありませんか。
……わたし、最終試験でエリューの提案を聞いて思ったの。
それまでは、対立してるみんなが全てを忘れてやり直せたらいいのにって思ってた。
でも、そんな夢みたいなこと考えてても解決しないって気付いたの。
エリューみたいに問題に向き合って、話し合って、解決する何かを作り出さなきゃいけないって。
まだまだ落ち着かないけど、少し道筋が見えてほっとしてる。
私も頑張る。エリューも頑張ってね。
結婚式で会えるのを、楽しみにしています。
――レーラより
エリューは手紙を読み終わると、手紙を胸に当てて深呼吸した。
「ありがとうレーラ。私も、頑張る」
――夕食後。
エリューと皇帝は、今日も庭園をゆっくり散歩している。
「ソリュードのレーラから手紙が届いたんです。前向きに頑張っていて、励まされました。私も頑張ります!」
「解決への道筋を片側で見つけるのは困難だが、双方が探し始めたら、いずれ見つかるだろう」
「そうですね、相手にも伝わるといいな」
エリューがピタッと足を止め、皇帝へ向く。
「そうだ! 陛下のお名前、聞いてもいいですか!」
皇帝も足を止め、軽く眉を上げた。
再びゆっくり歩き始めながら、つぶやいた。
「……シェイド」
「わ! 合ってる合ってる。陛下っぽい! じゃあ、これから二人の時は、シェイド様って呼んでもいいですか?」
「シェイドでいい」
「……ほんとに? ありがとうシェイド!」
――二人はベンチに並んで腰掛けた。
「……名前で呼ばれるのは、両親以外 初めてだ」
「シェイドのご両親は、どんな方だった?」
――少し間を置いて、シェイドが話し始めた。
「母も皇妃選抜で選ばれた。公爵家の出で、皇妃として育てられた完璧な淑女だった」
(デリーサ様みたいな感じね)
エリューは頷いた。
「父もずっと戦線にいた。母は父が恋しくて、離れている間は何も手につかず、ずっと泣き暮らしていた」
「俺も幼い頃から戦地に赴いていたので、母は寂しさと不安から、どんどん心を病んだ」
エリューはシェイドの横顔を真剣に見つめる。
「ある日、戦線に双頭竜がやってきた。父はそこで命を落とした ……俺はそこから2日、戦線を動けなかった」
「母は父の訃報を受け入れられず、戻ってこない息子への不安に堪えきれなくなり、自ら命を絶った」
シェイドの横顔をじっと見つめるエリューの頬を、
涙がつたった。
——1番頼りになる存在を失い、それでも戦い続けて、やっとの思いで帰ってきたら母も失っていたなんて……一体どんな想いだっただろう。
「……だから自分の皇妃には、自分を見ていない人を探そうとした」
「舞踏会の日、口上よりダンスより、スイーツを見ている令嬢がいた。俺の方は全く見ずに、美味しそうにケーキを食べて、幸せそうに帰っていった」
エリューは両手で涙を拭う。
「エリュー」
「お前が幸せそうにしていると、安心する。安心して戦地へ出かけ、楽しみに帰って来られる」
エリューはシェイドの手を取り、両手で握り締めた。
シェイドも、エリューの手を強く握り返した。




