第39話 父からもらった腕輪
セリクとエリューは並んで城の3階の回廊から訓練場を見下ろしている。
訓練場では皇帝と騎士が一対一で稽古をしている。
周りを他の騎士たちが囲み、様子を見ている。
「素人が見ても、動きが違いますよね」
「うんわかる。陛下、なんか滑らかだよね」
騎士の剣を避けながら、皇帝は時おり相手の脇や足をトンと指す。
「あれって"ココ空いてるぞ"、みたいな感じですよね」
「避けて、攻撃して、指摘してるんだね」
「凄いですね」
「かっこいいね」
二人はしばらく稽古を見つめた。
「ねねセリク、魔術研究院と、厨房全体の人数って調べられる?」
「えー、研究員は肌感だと50人……くらい? 厨房は分からないですね。午後に調べに行きます……なんでですか?」
「ふふふ」
――魔術研究院の院長室。
机や床に様々な資料が散乱している。
「……どうしたんですか」
荒れた部屋を見回しながら、セリクが声をかける。
「おぉ、セリクか」
部屋の隅で床に本を広げ、眺めていたドールキンがセリクの方を向いた。
「探し物ですか」
「ちょっと昔のことで思い出せんくてな」
「今年の魔術研究院の人員構成資料ってどこにありますか?」
「そこの棚にあったはずじゃが……」
ドールキンが指差した先の棚は、前を資料が塞いでいる。
「……これは片付けていいんですかね」
セリクはため息をつきながら棚に向かう。
「セリクよ、今度エリュー様の腕輪を見てきて欲しい。何かの印が刻まれていた気がするのだ。むかーし、儂の師匠が持っていた書で見た気がするんじゃが……何の印か全く思い出せん」
「それでこうなったんですね……分かりました、見せてもらっておきます」
——セリクは棚の資料を片付け始めた。
夕方の離れ。
エリューはテーブルに着いてポキスー※の筋を取っている。
「戻りました。魔術研究院は全体で72名、火属性研究員は26名、水属性は――」
セリクはテーブルに資料を置きながら腰掛ける。
「おおぉーーありがとう」
ポキスーのボウルを横によけ、手を拭く。
「何に使うんですか?」
「んーとね、戦線のご飯を変えられないかなと思ったんだよねー」
エリューは資料を手に取りながら答えた。
「こないだ戦線視察に行ったでしょ。すっごい簡素な調理場しかなくてさ。大したもの食べられないなと」
「はぁ……」
「せめてあったかいスープくらい飲みたいよねー。作って持って行くか、現地に行って作るか……どちらにせよ、配達屋さんかシェフが必要でしょー。更にその人が魔法を使えたら便利かなーと……」
「なるほど」
「もっと立派な調理場を建てるには何が必要がな……んー、もう少し練ってからアーカーに相談しようかな」
エリューは天井を見ながらポキスーを調理場のルトへ持って行く。
「――エリュー様って色々考えるんですね」
「あ、セリク、火の魔法使ってみた?」
「……はい」
「どうだった?」
「……まさかの、火が灯せました」
「おおぉーーやっぱり! でしょでしょ!?」
「魔力の流れのイメージひとつで、こんなに変わるものなのかと……ちょっとまだ、信じられません」
「んーむしろ、魔法はイメージが全てなんじゃない?」
「――そうなのか」
別の方向に魔力を向けていたら、発動しなくて当たり前かもしれない。
セリクはエリューの言葉が妙に腹落ちした。
「……そうだ、エリュー様の腕輪、見せてもらえますか?」
「これ? ハイ」
エリューは腕輪をつけたまま、手をセリクに向けた。
「あ……外してもらえますか?」
「実はコレ外せないんだ」
「え?」
「バルクシア王からの誕生日プレゼントが毎年この腕輪なんだけどね。魔除けの腕輪だから、寝る時も入浴も決して外すなと言われていて……」
「……お父上と関係悪そうでしたね」
「あーわかっちゃった? そうなの〜ギッスギスなの。父といい思い出って1つもないんだー。でも、この腕輪だけは唯一、気に入ってる。毎年新しい腕輪をくれるんだけど、少しずつ宝石が増えてくの」
エリューは腕輪と手首の間に指を入れてクルクル回した。
「じゃ、着けたままでいいので、見ていいですか」
「いいよ」
セリクは腕輪を見た。
宝石の間に刻まれる模様の中に、確かに印がある。
「見たことないな……」
「ん、なになに?」
「ここだけ違います」
「ほんとだ。ここだけ模様じゃないね」
「何かの印ですね」
「へぇー魔除けの?」
「それは、調べないとわかりません」
「ふぅーん……ただの腕輪だと思ってたけど、ちゃんとした魔除けの印が付いてたのか」
エリューは腕輪をキュッと握り締めた。
※【ポキスー】サヤエンドウに似た野菜




