第34話 バルクシア王の視察
バルクシア王とアーカーを乗せた馬車が、戦線の"中"を通過している。
「帝国は3つの戦線を守っています。ここは万が一の予防線なので騎士の数も少なめですが、前線はその奥にあり、陛下はそちらにおられます」
「王女は予防線にも近づけないで欲しい」
「……かしこまりました」
「――そういえば。王女殿下の魔力は素晴らしい。履歴書にも、同封のお手紙にも書いてありましたね。全属性が扱える方など……初めてお会いしました」
バルクシア王は黙っている。
「もしや……国王陛下も全属性が扱えるのですか」
「いえ……」
「では、エリュー様のお母様がお得意だったんですね」
「あの建物はなんだ」
「……あれは補充用武器庫です」
――アーカーと王を乗せた馬車が城の裏口に止まる。
「城内もご案内しましょうか」
「結構だ」
「ではお食事のお支度を――」
「いや……やはり」
「将来の皇妃の部屋を見せて欲しい」
王は皇妃用の部屋の扉を開ける。
部屋は薄暗く、整ってはいるがガランとしている。
「――ご利用がまだ先なので、お支度は整っておりませんが――」
王は一直線にバルコニーへと向かう。
窓を開けて空を見回している。
「……近くに飛び移れる木はありませんし、この高さなら登ってくるのも……」
「ありがとうございました」
バルコニーを確認すると、内装には目もくれず、王は部屋を出て行った。
――食事会ではバルクシア王、エリュー、アーカーが席に着いた。
食堂の隅にはリーサ・マルサ・セリクが控えている。
エリューはとても美しい所作で食事を続ける。
しかし顔を上げることはなく、無表情で口へ運ぶ。
「明日の婚約式は10時より大聖堂で執り行われます」
「皇帝陛下と近しい、限られた関係者のみ参列いたします」
「明日はきっと清々しい秋晴れとなることでしょう」
アーカーは業務的な話題のみ時々切り出しながら食事を進める。
「皇帝陛下は今夜お戻りになるので、明朝お目通りいただけます」
「分かりました。――では、失礼する」
王は食事が終わると、早々に席を立ち、食堂をあとにした。
「……なかなか、掴めないお父様でいらっしゃいますね」
「――嫌な気分にさせてしまって、ごめんなさい。父と対峙すると、頭が停止してしまって……なんのフォローもできず、ごめんなさい」
エリューは椅子の背もたれに力無く寄りかかり、どこか一点を見つめたまま呟いた。
「とんでもないことです。親子関係とは、難しいものですよね……私も父親の前では、うまく立ち回れません」
「……そっか。アーカーもなんだ……」
エリューは背もたれに頭を預けたまま、ころっとアーカーの方を向き、弱々しく微笑んだ。
「エリュー様……」
「明日は、皇帝陛下との幸せな未来のことだけ——考えていれば良いですからね」




