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第33話 バルクシア王 来訪

「婚約式に向けて、バルクシア国王が帝国に向かっておられるそうです」


 ――セリクの報告に、エリューの表情が固まる。


「式の前日にご到着予定です」


「…………」


「エリュー様?」


 予想外の無反応に、セリクが声をかける。


「――あ、ごめん……そっか、来るんだ」


「二つの王家の婚約式ですから……」

「うん、そうだよね」


「あと本日は、婚約式のドレスの最終調整があります」


「…………」


「午後にまた伺います」


「…………」


「エリュー様」

「あ、うん、ごめん」


 セリクは軽く首を傾げ、礼をして離れを出ていく。


 リーマルがエリューのそばへくる。

 椅子に腰掛けてまっすぐ壁を見つめるエリューを、リーサが後ろから抱きしめた。




 ――婚約式前日。


 バルクシア国王が帝国に到着した。

 エリューは質素なドレス姿で出迎えた。


 宮殿の貴賓室で、向かい合わせに座る。


 ――深い沈黙が続く。


「……お元気ですか」

「……変わりない」


 再び沈黙が続く。



 リーサが口を開いた。


「エリュー様は、素晴らしい成績で満場一致の元、試験を合格なさいました」


「当然だ。そうなるよう育てた」


(……初めから私を帝国に嫁がせる気だったの?)

 

「……私は社交の場での会話を知らず、一般教養に欠ける部分が多く、難儀しています」


「そんなものは今後も必要ない。皇妃として城にいろ」


「…………」

 

「――お前はあの建物にいるのか」


 バルクシア王は窓の外の離れを見る。


「はい」

「なぜだ」


「……みんなと一緒にいたいからです」

「お前が希望したのか」

「はい」

「わきまえろ」

「……でもまだ宮殿に住む身の程ではございません」


「婚約期間は1年だそうだな」

「はい」

 

「選抜試験が終われば婚約、結婚となるのが分かっていて、なぜ1年も必要だ」

「……私に合わせた諸々の調整と、ご多忙な陛下との親睦を深めるためのご配慮と認識しております」

 

「王族の結婚とはそういうものだろう」

「皇帝陛下のご配慮です」


「少しでもお前から婚約期間を縮める努力をしろ」

「……はい」


 バルクシア王は立ち上がり、


「結婚が成立するまで、これ以上話すことはない」


 部屋を出て行った。




「……相変わらず、むかつきますね!」

 小声ながら、怒りのこもる声でリーサが言う。

 

「技術だけで満場一致をとったわけじゃないのに、知ってる風な顔して……!」

 マルサも怒りをあらわにしている。


「"距離"じゃなくて"期間"を縮めろっていうのも腹立たしいです!」


 

 

「――ちょっと痩せたよね」

 正面の壁に視線を向けたまま、エリューが呟いた。


「城を出る時は、白髪が増えたなと思った」

 

「お互い毎日城にいるのに、それだけ会ってなかったんだって思った」



「――城にいてもいなくても、同じだね……」






「――本日は陛下がご不在のため、代わりに私がご挨拶させていただきます。ガーシュタルク帝国宰相のアーカーと申します」


 アーカーは、バルクシア王に丁寧に礼をした。


「不躾な娘がお世話になっております」

 

「いえいえ、素晴らしい王女殿下であられます。高い技術力もさることながら、お人柄が素晴らしいですね」


「世間知らずの未熟者です」


「……これまで一度も社交の場でお見かけしたことがありませんでした。なぜ……?」


「陛下に献上するために育てた。悪い虫がつく場など必要ありません」



「――帝国に何を求めておられますか」

 アーカーの声色が変わった。


「……こんな小国の王が野心など抱きません。願わくば、早く結婚を成立していただきたい」


 少しの沈黙が続く。



「――よろしければ、帝国をご案内いたします。エリュー様がこれから暮らす土地を、ご視察なされてはいかがでしょうか」


 アーカーはいつもの口調に戻り、提案した。


「……お願いする」

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