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第32話 散歩会議

セリクは今日も、離れの扉を叩く。


「エリュー様、おはようございます」

「おはようセリク。いい天気だね」


「皇妃補佐官として今後の動きをまとめましたので、報告に参りました」

「わぁ、ありがとう。お庭で聞こうかな」



 ――エリューとセリクは小庭のベンチに腰掛けた。

 紅葉した木々が揺れ、小さな噴水が水を湛えている。

 

 

「まず、毎朝その日のご予定をお伝えに参ります。取り急ぎは"婚約式"の準備があります」

 

「外出される際は必ず僕に一言ください。可能な限り随行します」

 

「陛下と連絡を取りたい場合があれば、僕が皇帝補佐官と連絡を取ります」

 

「足りないものなどあれば、僕にお知らせください。おおまかには、こんな感じです」


「分かりやすい〜ありがとう。困ったときはセリクへ、だね!」


「はい、勝手に城下町に行って戻ってこないとか、やめてくださいね」

「あはは、ルトが言ってたー? 気をつけます!」


「セリク、仕事忙しくなると思うけど、魔法研究も続けてね」

「あぁ……でも僕はそんなに……」

(興味ないんだけどな)


「ね、小さい精霊、意識して使ってみた?」

「いや、まだです」

「じゃ今やってみよ!」

「え……」


 エリューはセリクの前に立つ。

 

「ほら、お庭だから木属性の精霊が今いっぱいいるわけ」


 エリューは手を広げてふわふわ動かす。


「あっちには、水の精霊もいる」


 エリューは噴水を手差しした。


「土が多いところには土の精霊、火が燃えていれば火の精霊が集まってる、ってイメージ」


「精霊は魔法を使うときだけじゃなくて、いつもそばにいるのよ」

「……はぁ」

 

「で、魔法を使うときは、その子たちにお願いする気持ちで詠唱するの。すると、その子たちが魔法を発動してくれる」


「……ん? 精霊 "が"発動するんですか?」

「そうそう、そこもポイント」


「自分の魔力が魔法に変化するんじゃなくて……自分の魔力を周りの精霊に渡して、精霊から発動してもらう感じ?」


 エリューは手を動かしながら説明する。


「…………それも初めて聞いた理論です」

「あ、理論なんてしっかりしたのじゃなくて、わたしのイメージなんだけどね」

 

「だからみんな得意不得意はあっても、全部の属性が使える気がするんだけどなぁ」

「……それは全属性が使えるエリュー様だけの感覚かもしれないですね」

 

「あははそっかー。でもまぁ、やってみてよ!」

 

 エリューに促され、仕方なく手をかざす。


(周りに精霊がいて……)

(その子たちに魔力を渡して……)

(発動してもらう……)

(……花を咲かせるイメージ)

 セリクが詠唱した。


 すると、ベンチの前の草がザワザワと伸び、色とりどりの花が咲いた。


「おぉぉーーセリクうまい!」

「…………」

「どう?どう?」

「…………なんか、うまくいきました」


「でしょでしょ! このイメージ持ってたらセリク、火も起こせるはず!」


「いや……木属性が火を扱うのは無理ですよ」

「そのイメージを、ポイッてして!」

「いやいや無理です」

 

「むーそうかー……」

「まぁ、私が見てない時にでも試してみてっ!」


 エリューがあははと笑い、再びベンチに並んで座り直す。


 


「――もうすぐ婚約式ですね」

「そうだね」

 

「皇妃になるって、どんな気持ちですか」

「んーー、まだなってないからなー」


「陛下とは、どんな話をするんですか」

「それがねー、忙しいじゃない?陛下」

「まだね、ちゃんと話したの1回なんだよね」

「へぇ……」


「でもその時は、優しい人なんだなと思った。ちゃんと言葉を選んでくれてるというか」


「あ、そうだ、私これからなるべく陛下と一緒にご飯したいと思ってるの。昼食か、夕食ね。陛下がお城でお食事する時は教えて欲しいな」

 

「分かりました。確認しておきます」

「えへへ、ありがとう頼りになる」


 エリューはニッと照れ笑いを浮かべた。


 


 ——その夜、セリクは自分の部屋でロウソクに灯るあかりを見つめた。


(火があるから、いま火の精霊がいる……)

 フッと息を吹きかけ、火を消す。


 ろうそくに手をかざす。

(ここに火を灯したい。この魔法力を、使ってもらって……)

(意識はロウソクへじゃなくて、その周りに渡すイメージ……)


 セリクは詠唱した。



 ――ろうそくに小さな灯りがともった。

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