第29話 皇妃補佐官セリク②
――再び離れの扉の前に立つセリク。
(……扉を叩く手が重い)
何とか腕を持ち上げて、ノックする。
扉を開けたのは、またエリューだった。
「あ、セリク戻ってきた! もしかして今、伝えに行ってくれたの?」
「はい……」
中へ通されながらセリクが返事をする。
「そっか、早速ありがとう。どうだった?」
置かれたままの空のティーカップに紅茶を注ぐ。
「……もう手配が始まっているので、困るそうです。なので……お引越し、してもらえませんか」
「え、そうなんだー……」
エリューは紅茶を飲みながら考えている。
「――何が来ちゃうのかな?」
「え?」
「手配したものってさ」
「確かに……」
「私の部屋のことなのに、私が知らない……」
「…………」
「なるほどなるほど、ちょっと見えてきたな」
「……何がですか」
「多分、この問題の裏には――」
「誰かの気遣いがある!」
(!?)
「ね、次は一緒に宮務局行こ!」
「えっ!」
(何する気だろう)
「紅茶飲んだら行こ!」
(……飲み終わりたくねぇぇー)
「で、セリクはなんで魔術研究院に入ったの?」
(また俺の話……)
「……家が魔術系なので」
「そっかぁ〜帝国だと少なめだよねぇ。魔術はどこで学んだの?」
「家庭教師からです。実践向きじゃないので研究員になりました」
「調べるの好きなんだねー」
「いや……特に他に無かったんで……」
「そう?向いてそうだよ」
「そうだ、セリクの得意属性当てクイズしていい!?」
「え……はぁ」
「得意属性は1つ?」
「いや……普通1つですよ。相当才能あれば2つですけど」
「へぇーそうなんだ、さすが詳しいね!!」
「常識です」
「えっとねーーーー」
エリューがまじまじと見つめてくる。
セリクは迷惑そうに目を逸らす。
「…………木属性! ピンポン?」
「…………正解です」
「やっぱりねー! ふんわりした雰囲気が植物と合ってるよー」
(……魔法苦手だって言ってんのに)
「木属性の魔法って、難しいよね。植物を操ったり、イメージがしづらいよね」
「ね、セリクはいつも、どんなこと考えて魔法使ってる?」
「……え、木の精霊さまに祈ってます」
「どんな精霊?」
「……あの、絵本に出てくる、ドリアードとか……」
「おっきい木の精霊?」
「はい」
「そっかそっかー」
エリューはうんうんと頷く。
「私はねぇ、もっと小さな精霊をイメージしてる」
「小さいの……ですか?」
「そうそう。ドリアードより、もっと身近にいる、このくらいのちっちゃな精霊」
エリューは手で拳大くらいの空間を作る。
「その精霊がたーーくさん周りにいるの」
「わたしドリアードってさ、中間管理職だと思うんだよね」
(……何の話だ)
「精霊が一人で、そこらじゅうからくる祈りに対して全部に魔法を送るの、無理だと思わない? だから、現場で魔法を発動させてるのは、身近にいるちっちゃい精霊たちなんじゃないかなって」
(……近くの小さい精霊)
(そんな魔術理論、聞いたことない)
「今度さ、試しに、近くの小さな精霊に祈る気持ちで詠唱してみてね。あ〜楽しいね! わたし誰かとこんなに魔法について話したの初めて!」
エリューはテーブルに手を付いて立ち上がった。
「よし、じゃ、宮務局いこっか!」
——セリクは気後れしながら後をついていった。




