第28話 皇妃補佐官セリク①
「――セリクよ、お前を皇妃補佐官に任命する」
魔術研究院 院長ドールキンが告げた。
「え......それ、どんな仕事なんですか……」
「皇妃様に関わる、あらゆる業務を担うのだ」
(……雑用係ってこと?)
「本日から携わるように。宮務局へ行って説明を聞いてきなさい」
——セリクは宮務局へ向かって、とぼとぼと歩いた。
(皇妃様……魔術試験で全属性を炸裂したっていう)
(他の試験もぶっちぎりだったとか噂の……)
(絶対高飛車で我儘で、いけすかない人だよな)
(やだすぎる、やだすぎる……)
宮務局で書類を受け取る。
「エリュー様はまだ離れにお住まいだから、最初の業務は皇妃用のお部屋へ引越しだ」
セリクは書類に目を通す。
装飾、必要な物品、引越しの人員確保、引越し中に王女がいる場所の確保……
(つまんねぇ仕事!)
セリクはため息をついた。
翌日、セリクはドールキンとスウィフトに連れられて、離れを訪れた。
スウィフトが扉を叩くと、エリューが扉を開けた。
「あ、スウィフトさんこんにちは」
「エリュー様、ご機嫌麗しゅう」
(え、この人が皇妃……!?)
「スウィフトさんも元気そうでよかった」
(……聞き間違え? 似た名前の侍女かな)
(服装も普通だし)
中のテーブルを案内される。
「エリュー様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。この者は、帝国魔術研究院 院長のドールキンです」
「ドールキンでございます。魔術試験の監督を務めておりました。類稀なる才をお持ちで、あのような得も言われぬ美しい光景を、未だかつて見たことがありません」
(やっぱりこの人が皇妃様なんだ)
「そんな、お恥ずかしいです。よろしくお願いします」
エリューは両手でドールキンと握手する。
ドールキンはエリューの手元に目線を落とした。
「そして、こちらはこの度、皇妃補佐官となりましたセリクでございます」
「は、初めまして……セリクと申します」
セリクは腹に片手を当て、腰を少し曲げた。
「セリクさん、はじめまして。バルクシア王国王女のエリューです。お世話になります」
「みなさんお掛けください」
エリューは棚からポットと紅茶を出す。
(とりあえず、高飛車ではなさそう……えっ自分でお茶淹れんの?)
「エリュー様、セリクを置いて我々はもう失礼いたしますので、お気遣いなく」
「あら、そうなんですか」
「セリク、しっかりな」
(……俺、置いていかれんのー!?)
おじいちゃんズが去り、改めてポットに茶葉を入れるエリュー。
奥からリーサが口をモグモグさせながら顔を出す。
「……む、お客様!? すみません姫さま、やりまふ やりまふ!」
「あ、大丈夫だよーお湯沸かしてくれる?」
「はい!」
(侍女、いるんじゃん!)
「あ……わたし座るので、セリクさんも座ってくださいね」
エリューは腰掛けながら促す。
セリクも腰掛けた。
「えーと、皇妃補佐官さん」
「セリクとお呼びください」
「ありがとうセリク。皇妃補佐官って……どんな仕事なの?」
「……僕も昨日就いたばかりで、あまり分かっていません」
「じゃあ、普段は何をしてるの?」
「魔術研究院で研究をしています」
「へぇー面白そう!」
「いや……はい」
(俺の話はいいのに)
「あの皇妃様」
「あ、まだ皇妃じゃないから、エリューでいいよー」
「……エリュー様、皇妃様用のお部屋へ引越しをするんですが、その事でご相談があります」
「えっ、引越し!?」
「はい、まずカーテンなんですが、何色がよろしいですか?」
「ちょ、ちょっと待って、引越し?」
「はい、今かかってるのは落ち着いた明るめの」
「セリク待って!」
「……はい」
エリューは椅子から半分腰を浮かせている。
「……引越しは、しなくていいかな」
(え!)
「このまま、離れで、暮らしたいんだ」
(そんな……こと言われても)
「とりあえず、婚約期間中は……」
「…………」
「そうやって、伝えてもらえるかな」
「……はい……わかりました。そのように伝えてきます」
セリクは席を立ち、礼をして出て行った。
「……あれ? お客さん、もう帰られたんですか?」
リーサがお湯を持って調理場から出てきた。
「うん、帰っちゃった……」
エリューは椅子から立ちかけてポカンとしている。
セリクは宮務局へ戻った。
「あの、エリュー様は婚約中はお引越しなさらないそうです」
「えぇ!? 困るよ〜もう色々手配してるのに〜」
「遠慮なさってるんじゃないの? ちゃんと説得してきた?」
「…………」
「もう一回聞いてきなー!」
(あぁーやだすぎる やだすぎる)
セリクは途方に暮れた。




