表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/114

第二十三話 返事

翌日の朝、アーカーと皇帝は執務室で政務をこなしていた。


 扉が開き、エリューが案内され入ってくる。


 ハッとして皇帝が立ち上がる。

 

「おはようございます」

 アーカーが足早に扉へ向かう。

 

「少し歩きましょう」

 エリューを連れて部屋を出ていく。


 ——皇帝はいつの間にか固く握ったこぶしを見つめ、ゆっくり開いた。


 

「――昨夜は眠れましたか」

「……夜明けは見ました」

「そうですよね。大きな決断の夜、なかなか眠れませんね」


 アーカーは軽い会話を語り掛けながら廊下を進む。


 二人は中庭へやってきた。


「座りましょうか」

 ベンチに二人で腰掛ける。



「――答えは、出ましたか?」


「……はい」


 アーカーの手に軽く力が籠る。




「お聞きしてもよろしいですか?」

 



「――婚約をお受けします」


 アーカーはゆっくり目を閉じた。

 


「どちらを選んでも、自由と責任があると気付きました。外の世界は自分のためで、でも、ここには私がいたら喜んでくれる人がいて……」


「その人たちのために私ができることがあるって……幸せなことだと思いました」


 アーカーは立ち上がり、エリューの前に跪いた。


「エリュー様……ありがとうございます」


こうべを垂れると、芝生の中へ雫が一粒消えていった。


 

「……正直言うと、皇帝陛下とは、どう接したらいいか分からなくて……」


「あの、変な話ですが、陛下と結婚するって全然考えてこなかったんです。遠くにいる、おとぎ話の中の人のような感覚で……」


「だから、あの陛下の隣にいくなんて、想像もつかなくて……」


「ご心配いりません」

 アーカーは顔を上げニッコリ微笑む。


「陛下のことを、まっすぐ見てみてください。今はそれだけで充分です」


「――分かりました」




 ――皇帝は執務室の窓辺に立ち、外の風景を眺めていた。

 扉が開き、エリューとアーカーが入ってくる。


「陛下、お待たせいたしました」


 エリューをつれて、皇帝の前までくる。


「婚約をお受けくださるそうです。

では、今度はお二人でお散歩へどうぞ」


 アーカーに促され、二人は部屋を出た。





二人は宮殿の展望台に来た。

 城の中ほどの高さの展望台からは、庭園がよく見える。


 皇帝は欄干まで歩くと、後ろからついて来るエリューの方を振り返った。


 エリューは皇帝の前で止まると顔を上げ、まっすぐ皇帝を見た。


 皇帝はエリューと目が合うと、少し目を泳がせ視線を逸らす。


「あは……なんか照れ臭いですね……」


 二人は並んで横に立ち、庭園を眺めた。




「――婚約を承諾してくれて、感謝する」


「こちらこそ、ありがとうございます」


「――俺は幼い頃から戦地ばかりで、人として足りない部分がある……。思いを察してやれない時もあると思う。その時は無理をせず打ち明けてほしい」

「はい」


「離れている時間が多いと思うが、気兼ねなく楽しく過ごしてほしい」

「はい」


「……何か望むことがあれば……応える……」

「はい」


「…………」


 展望台にそよ風が抜けていく。



 皇帝は欄干に両肘をつき、頭をうずめる。



 ――しばらくすると頭を上げ、口を開く。

 


「二人が外へ出ている間、落ち着かない気持ちだった。なぜなのか考えた」

 

「それは――」


 皇帝はしばらく庭園を見つめた。

 

「もし断られたらと、不安になっていたのかもしれない」

 

「受け入れてもらえて、今ほっとしている」

 

「共に歩めることを……嬉しいと思っている」

 

「はい……」


 皇帝がエリューの方へ体を向き直す。


 

「――気の利いた言葉すらかけてやれないが……お前が幸せに生きる姿を、隣で見ていきたい。末長く、そばにいて欲しい」

 

「……はい……!」

 

 エリューも皇帝に向く。

 

「私も城の中で育って、知らないことだらけです。

 バカなことをして呆れられることもあるかもしれません」

 

「……陛下にはもっと、自分の時間を過ごして欲しいと思ってます。ゆっくりしたり、楽しんだり……その時間を、一緒に作れたら嬉しいです」


「私も、陛下が幸せに生きる姿を、隣で見たいです。末長く、よろしくお願いします」

 



 ――秋の柔らかな風が二人を包んだ。



 

 ― 第一部 完 ―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ