第二十二話 審査と報告
――執務室で皇帝、アーカー、スウィフトが机を囲んでいる。
「皇妃選抜試験の結果は、満場一致でエリュー様となりました」
アーカーが皇帝に報告する。
スウィフトはアーカーの隣でゆっくり頷く。
「陛下の異論が無ければ、明日の朝エリュー様に合格を伝え、お返事を確認し、婚約へ進みます」
「陛下、よろしいですか?」
「――あぁ」
皇帝は一度視線を落とした。
「――進めてくれ」
スウィフトが退室し、部屋はアーカーと皇帝の二人になった。
「――長かった試験が終わり、いよいよご婚約が見えて来ましたね」
「……アーカー」
「はい、陛下」
「……母のようにはしたくない。だから彼女を選んだ。だが……これから、どう進むべきか分からない」
「陛下……」
「大丈夫です。エリュー様は母君よりずっとお強い方です。またすでに帝国の人間に愛されています。寂しい思いはさせません」
「陛下はこれから、ご自分のお気持ちを探してください。エリュー様に会ったとき、心が何を感じているか……」
「……分かった」
——翌朝。
アーカーはエリューの離れを訪れた。
「大事なご報告をしに伺いました。よろしければ、少し歩きませんか?」
リーマルは手で口を押さえている。
「わかりました。参ります」
エリューとアーカーは宮殿の中庭を歩いた。
「皇妃選抜試験の結果が出ました。……エリュー様が合格です。皇帝陛下も結果を了承されました」
「エリュー様もご了承いただけるようなら、婚約へ進めて参ります。よろしいですか?」
――エリューの足が止まった。
隣を歩いていたアーカーも足を止める。
「……お返事できない理由があるんですね?」
「……私、ずっと自由がなかったんです。国から出たこともなく、毎日訓練漬けで、目的も分からず……抜け出したかったです」
「急に、皇妃選抜試験を受けろと言われました。受からなかったら王位を剥奪する、好きなところで生きろと」
アーカーが悲痛な顔でエリューを見つめる。
「受からなかったら自由になれる。そんな気持ちで帝国にきました。でも――」
「初めて城を出て、帝国で今までにない経験を沢山して、帝国のみんながとても優しくて……」
「今、どうしたらいいか分かりません」
「陛下は、なぜあなた様をお選びになったと思いますか?」
エリューは首を振った。
「――自由だからです」
エリューはアーカーの横顔を見る。
「陛下は戦地で離れている時間も、自由に生きられる方を望んでおられました。帝国でのエリュー様は何にもとらわれず、自由に振る舞っておられました」
アーカーはエリューの方を向いた。
「望まない人生を強いられる苦しみは、私もよく知っています。だから無理強いはできません。でも――」
「もし陛下と共に歩んでくださるなら、エリュー様が自由を失わないよう、私も力を尽くします」
「皇妃様となられても、ぜひ......そのままのエリュー様でいてください」
――エリューは離れへ戻ってきた。
リーマルが駆け寄る。
「……どうでしたか?」
「……うん、合格した」
リーマルは口を押さえ、声を漏らす。
「頑張ったな、エリュー」
「お疲れ様でございました」
「――なんて返事をしたんですか?」
「……まだ、返せなかった。みんな、私どうしたらいいかな」
離れがシンとする――
「……私は、断っていいと思います」
リーサが切り出した。
「やっと自由まであと一歩のところに来たんです」
「大国を担って、また縛られるなんて……」
マルサがポツリと言う。
「[自由になったら]叶えたいこと、沢山あるじゃないですか……お店でご飯食べて、海に行って、演劇を観て、何にもしないでボーっとして……」
「もう、姫さまは自由に生きていいじゃないですか」
「――自由ってのは案外自由じゃないんだぜ」
ルトが口を開く。
「自分で食いぶち見つけて稼いで、食べていくってのは思った以上に大変だぞ。仕事で嫌な思いをすることもある」
ルトはカーツの肩を持つ。
「俺らが一緒にいられるうちはいいよ。でも俺らは先立つから……エリューが人生の終わりに苦労して欲しくないんだよなぁ」
「――私は帝国で姫さまが楽しく過ごす姿が見られて、とても嬉しかったです。どんな所かとはじめは心配しましたが……この国で自由に生きるのも、良い選択だと思います」
カーツが自分の思いを口にした。
「――でも、決めるのはエリューだからな。どっちを選んでも俺らはお前の味方だから」
ルトがエリューの頭をポンポンと叩く。
――部屋に戻ったエリューはベッドに横たわり、窓から星を眺めた。
りりりり……と虫の鳴く声だけが響いていた―




