第二十一話 試験⑥最終試験
候補者たちは、第一回試験が行われた円卓の間に集められた。
アステナ王女が辞退し、候補者は6名。
それぞれが円卓の椅子に着く。
エリューは第一回試験の時と比べて、とても凪いだ気持ちで座っていた。
魔術試験の時、迷いは晴れた。
そして、これが最終試験。
帝国で過ごした日々が感慨となって胸に迫る。
結果のことを考えず、周りに揺らがず、そのままの自分で正直に向き合おう。
いま一度自分の心に言葉を落とし、胸に手を当てた。
扉が開き、アーカーとスウィフトが入ってきた。
円卓の中心に並んで腰掛ける。
「皆さま、お待たせいたしました。それでは、最終試験を開始します」
アーカーは机の上に紙とペンを置いた。
「最終試験は――【皇妃になったら何をするか】をお答えいただきます」
「事前に考えをまとめてきていただいていると思います。発表はフィオーネ様、ルミエル様、レーラ様、タリエラ様、デリーサ様、エリュー様の順にお願いいたします」
順番を聞いたデリーサがうっすら眉をひそめた。
「では、フィオーネ様、お願いします」
「はい。わたくしが皇妃になった際には、陛下の一番の理解者になりたいと思います。戦地から無事にご帰還なさるよう毎日祈りを捧げ、お疲れの際には環境を整え、お心を癒して差し上げられる存在でありたいです」
「ありがとうございます。陛下のお心を支える存在になってくださりそうですね」
「では続いてルミエル様、お願いします」
「はい。わたくしは政務を学び、陛下と共に歩める皇妃になりたいと思います。方針で悩まれた際には相談に乗れるよう知識を身につけ、一助になれればと思います」
「ありがとうございます。とても頼もしい皇妃になっていただけますね」
「続いてレーラ様、お願いします」
「はい。私は国内で意見が対立し、争いになる経緯を知っています。決して国民から目を逸らさず、すべての国民が幸せに暮らせる国づくりのお手伝いをしたいと考えています」
「ありがとうございます。苦しい経験を帝国に活かそうとしてくださり、心から感謝申し上げます」
「続いてタリエラ様、お願いします」
「はい。わたくしは幼い頃から皇妃となるべく研鑽を積んで参りました。帝国の政治に関わるあらゆる知識も、各国との交流状況も把握しております。またいざという時は陛下と共に剣を持ち戦う覚悟もできております。誰よりもお側で陛下をお支えする存在になります」
「ありがとうございます。確固たる信念を持った皇妃になりますね」
「続いてデリーサ様、お願いします」
「はい。わたくしも、タリエラ様と同じく幼い頃から帝国皇妃として必要な全てのことを学んで参りました。陛下をお支えすることは私の生き甲斐であり、人生の目的です。陛下の望む全てのことを叶えるため、全力で尽くします」
「ありがとうございます。後世語られる陛下への深い愛を持った皇妃になりそうですね」
「では最後に――」
「エリュー様、お願いします」
その場にいる全員の視線がエリューに集まる。
「はい」
エリューは目を閉じて静かに息を吐いた。
私がもしこの国の皇妃になるなら……
この数日間、今まで全く考えなかった未来の想像を膨らませた。
この国で出会った、帝国戦団のみんな。
大陸の平和はここで守られているのだと初めて実感した。
差し入れを持って感謝の気持ちを伝えにいったら、感激して受け取ってくれた。
もし皇妃になるなら、彼らに報いたい。
エリューは目を開くと、ゆっくり話し始めた。
「私は――新しい戦団と、学校を作りたいです」
「戦団と学校……ですか」
予想外の提案に、円卓の間の空気が動く。
「帝国戦団は大規模ですが、明らかに人員が足りていません。生涯の殆どを戦いで終わらせていく人が沢山います。
もっと、生活にゆとりと彩りを持って生きて欲しいんです」
「帝国戦団は貴族だけです。でも、一般国民の中にも戦える人間はいます」
「――まさか、国民を戦いに巻き込むというの!?」
デリーサが身を乗り出して口出しする。
円卓の空気が張り詰めた――
「国民は守られるだけの存在じゃないと思うんです。剣も弓も武術も魔法も……使える人間は沢山いるのに、身分が違うから入団できていない……」
「もちろん希望者のみ採用します。命を無駄に落とさないよう、採用試験も実施します」
――デリーサはゆっくり座り直した。
「また、帝国は魔術団の人員が圧倒的に少ないです。
騎士で成り立つ国だから、騎士希望者は多いけど、魔術士希望者が少ない……だから、学校で後進を育てます」
「魔術士の数が増えれば全体にゆとりが生まれて、今戦っているみんなが自分の時間を生きられるようになります」
――アーカーが指摘した。
「しかし、教える人間がいません。みな戦地へ出払っていて、教師分の人員を割くことができません」
「魔術は歳を重ねても扱えます。ご引退なさっている魔術師の皆様に力を貸してもらいます。それでも足りない分は――」
「私が戦地で補います」
魔術試験での圧倒的な魔力を脳裏に浮かべ、みな息を飲んだ。
「以上です」
「わかりました、ありがとうございます」
「まさかこんな具体案が出てくるとは……驚きました。すぐにでも、検討したいと思います」
「それでは、最終試験は終了いたします。みなさま、長い試験期間 お疲れ様でございました。結果が出るまで、今までの緊張を忘れ、帝国での日々をお楽しみください」
人々が動き出す。
エリューも席を立ち、出口へ向かった。
「——ねぇ、エリュー様」
エリューの背中越しに、デリーサが声をかけた。
「国民戦団と学校の案は、いつから考えていたの?」
「いつからだろう……訓練場に差し入れを持って行くようになってからだから――」
「あなたそんなことしてたの」
「訓練場にいるメンバーがよく替わるから、余裕がないように感じて、思いつきました」
「そう……」
デリーサは大きくため息をつき、小声で呟いた。
「私はこの国でずっと騎士団を見てきたけど、思いもよらなかったわ……」




