第十九話 アステナ王女
「エデュバラ王国のアステナ王女が、皇妃候補を辞退なさるそうです――」
「え! そうなの……?」
「つい今しがた、そこでスウィフト試験官から伺いました」
リーサは窓の方を指差した。
「エデュバラは帝国に次ぐ大国だからな。わざわざ帝国に嫁がなくても困らねぇんだろ」
朝食の皿をテーブルに置きながらルトが言った。
「そうなんだ。すれ違う時に挨拶するくらいしか関わらなかったけど……好きだったな」
弓術の練習場へ向かう途中、宮殿から出てくるアステナ王女と出会った。
「ごきげんよう、エリュー様」
「アステナ様、おはようございます」
「わたくし、帰国することにしたのよ」
「辞退なさったんですか」
「えぇそう。いま陛下にご挨拶してきたところ」
アステナは宮殿の方を振り返る。
「陛下はハンサムだし帝国と繋がれるのはメリットしかないし、喜んで募集に応じたのだけれど……」
アステナは真っ直ぐエリューを見つめた。
「――あんな神がかった演奏を聴いたら、張り合うのがバカらしくなってしまったわ」
「え?」
「というのは言い訳」
アステナはニッとした。
「舞踏会でデルガルド王国の王太子とお近づきになれたから、目標を切り替えることにしたの」
「へぇぇ……!そんな出会いがあったんですね」
「ねぇ、デルガルド産のおすすめスイーツはなに?」
「ボルチェです」※1
「――あははは!本当に詳しいのね!」
アステナは口元に手を当てて高らかに笑った。
「王太子と会う時、話のネタに使わせてもらうわ。ありがとう」
「頑張ってください!」
「あなたもね。応援してるわ」
長い髪をサラリとなびかせ、アステナは自分の離れに入っていった。
「アステナ様は、舞踏会でデルガルド王国の王太子と仲良くなったんだって」
「そうだったんですか。行動力すごい」
紅茶を注ぎながらマルサが答える。
「デルガルドって水晶の鉱脈がわんさかある国だな。抜け目ない姫さまだ」
ルトはこちらを向きながら調理場で釜戸に薪をくべている。
「あのひとときの間に、人生が変わる出会いをして、変える決断をしたんだね――すごい。私ほんとバルクシアの壁の内側しか知らないなって思った」
みんなの手が一瞬止まる。
「……そりゃ、人生も境遇も色々あるさ。それに――」
ルトはエリューのそばへ来て、頭をグリグリなでた。
「エリューはもう帝国のことは色々知ってるしな」
「あ、炭だらけ」
「え!ちょっとちょっとーー!」
指をホウキのようにして頭を払う。
「エリューはこれからこれから! 気にすんな!」
「ルトは気にしなよ!」
※1
ドルチェのババによく似たスイーツ




