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第十八話 エフォルテ試験

どんな曲が話題に出たのか

どんな曲を弾いたのか、想像できるように

最後の注釈に現実世界の曲名を書きました。


とってもよく似ている曲たちなので、

聴きながら読んでみてください。

※エフォルテは現実世界のピアノによく似た楽器



 

 城内の奏楽の間に、候補者たちが集められた。

 

「エフォルテ試験は希望参加の項目でしたが、全員希望されました。さすが淑女の嗜みと言われる楽器ですね」


 アーカーはエフォルテの屋根を持ち上げながら言った。


「何の曲でも構いません。一曲ご披露いただきます」

 



 エリューはまだ気持ちが定まらないでいた。


『――本気でぶつかってください』


 ライネフの言葉が頭を回る。


(本気を出す……私の本気……それは?)


"全力で試験に臨むこと"


(エフォルテ試験に全力で臨むとしたら……何を弾いたらいいんだろう)


 テリントス……英雄……パシオリタ……※1

 様々な曲が頭を巡る。

 


『お前の演奏からは歌が聞こえてこない』

『決して人前で演奏するな』



 父王から繰り返し言われた言葉が蘇る。


(こんな私が全力で演奏したところで、たかが知れてるか……)



後ろから囁き声が聞こえた。


「何を弾くの?」

「ミュ・ヴェールにしたわ」※2


(ミュ・ヴェール……)


(…………だめだ。やっぱり、曲の難易度は下げよう。その代わり、全力で弾こう)


 エフォルテの準備が整うと、アーカーは候補者の方を向いた。


「さて、今回の発表順は——」


 一人一人の顔を眺める。

 みな緊張した面持ちで目を合わせない。

 

「……挙手制にしてみましょうか。いかがでしょう皆様……」



 エリューがスッと手を挙げた。


「……エリュー様。一番やりづらい順番を引き受けてくださり、ありがとうございます」


 アーカーが恭しくエフォルテまでエスコートする。



 椅子に座り、深呼吸する。

(全力で、弾く――)


 演奏が始まる。


「――メロゥ・トルゥだわ……」※3




 演奏が終わった。


 ――誰も動かない。


 エリューはゆっくり椅子から立ち上がった。


 拍手は起きない。


 みな表情が固まっている。

 

(私の演奏、そんなにひどいんだ……)


 胸元をギュッと抑える。



「すみません、緊張して気持ち悪くなってしまったので、医務局に向かいます」


 早足で広間を出ていく。



 ――しばらく黙っていたアーカーが、意を決して口を開いた。


「次の方……いかがですか」


 誰も動かない。


「――そうですよね。この演奏のあとに弾ける人は恐らくいませんね……」

 

「試験は一旦中止にしましょう。何か良い方法を考えて、また改めてお知らせします」



 エリューは中庭の隅で膝を抱え、うずくまっていた。


 美しい花々が咲き誇り、大理石の噴水が静かに水をたたえている。



「おや、医務局はこちらでしたか」


「癒しの効果を考えると確かに医務局といえますね」


 アーカーはエリューのすぐ横に腰掛けた。


 挿絵(By みてみん)


「……ひどい演奏をお聞かせして、すみませんでした」


「そんなにひどい演奏だったのですか?」


「みんな固まってました」


「心が打ち震えて、身動きが取れなかったんですよ」


「…………」


「本当ですよ?」


 ――無言で首を振る。


「少なくとも――私はそうでした」


「…………」


「音が光になって舞い、歌が聞こえるようでした」



 ――ゆっくりと顔をアーカーに向ける。

 頬は涙で濡らした跡がある。


「なぜ、メロゥ・トルゥにしたのですか?」


「――臆病だからです」


「もっと難易度の高い曲でも戦えたんじゃないですか?」


「…………」

 


「エリュー様は帝国に到着してからずっと――勝負に負けようとしていますね?」


「……受かりたくないんです」


「ひとつお伝えしておきますと。スキルが高い人が受かるわけではありません」


 エリューはアーカーを見つめる。


「陛下が望む皇妃像に当てはまる人を探しているのです」


 アーカーが微笑み、エリューに視線を返す。



「もし陛下がとても負けず嫌いで、何でもできる人を選びたくないとしたら……おっちょこちょいのエリュー様は選ばれる可能性が高いですね!」


 エリューは目を丸くする。


「もちろん、今の段階で陛下が皇妃様に求めていることは明かせませんが――」


「高得点を取ることが、必ずしも合格に繋がるわけではないのです。だから――」


「そのままのあなた様で、試験に臨んでください」


「試験に気遣いは不要です。口頭試問の時みたいに、裏目に出ちゃいますよ」


 アーカーは立ち上がり、


「次回は魔術試験ですね。そのままのエリュー様で、頑張ってくださいね。では――」


 会釈をして立ち去った。




 ——エリューは空を見上げた。

 雲ひとつない青空が広がっている。




 


※1

【テリントス】エチュード別れの曲によく似ている曲

【英雄】英雄ポロネーズによく似ている曲

【パシオリタ】ソナタ熱情によく似ている曲

三曲ともかなり難易度が高い

 

※2

【ミュ・ヴェール】ジュ・トゥ・ヴによく似ている曲

中級くらい

 

※3

【メロゥ・トルゥ】トロイ・メライによく似ている曲

楽譜はとても簡単だが表現力がいる

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