第十七話 試験のあと
「エリュー様! 待ってください!」
ライネフは走りながら声を上げた。
先を歩いていたエリューはゆっくりと足を止めた。
ライネフはエリューの前へ回り込む。
「なんで本気を出さなかったんですか」
「…………」
エリューは黙って、斜め下の床を見つめている。
「具合が悪いなら、再試験を申し込みましょう!」
エリューは首を振った。
「――悪くない」
「……何があったんですか」
エリューの瞳が揺れた。
口を開き、言葉を発しようとして息を吐く。
ライネフはエリューの手を引き、廊下を歩き始めた。
「座って話しましょう」
廊下の先にある小庭のベンチにエリューを座らせ、その向かいに片膝をついた。
エリューは顔を背けている。
「――ライネフは……デリーサ様とタリエラ様のこと、昔から知ってる?」
「はい。お二人とも帝国の公爵家の方です」
「ずっとずっと皇妃になろうと頑張ってきたんだよ」
「……存じています」
「皇帝陛下のことも、ずっと見てきたんだよ」
「…………」
「……私は……」
「……この試験に受からなくてもいい、って気持ちでここにいるの」
「必死で臨んでる人に失礼だよね……でも、バルクシア王との約束だから、辞退は出来ないんだ……受かる気ないのにね」
「……エリュー様」
「ここまでの試験も、なるべく受からないよう動いてた。そんな遊び半分にふざけた人間、ここに居て欲しくないよね」
エリューの頬に一粒の涙がこぼれた。
「ここにいる理由は、人それぞれです。受かりたくないことに罪悪感を持つ必要はありません。陛下が世界中に募集をかけ、選ばれた方がここにいるんです。周りの人間が文句を言うのはお門違いです」
「それから……」
「――本気でぶつかってください。後ろめたいのは本気じゃないからです」
エリューの顔に驚きの表情が滲む。
「中途半端に臨んで、それでもエリュー様に決まったら……デリーサ様はもっと行き場のない気持ちになります。でも、本気で臨んでエリュー様に決まるなら、デリーサ様も文句はないはずです」
「決まってしまって、どうしても受け入れられないなら、その時に断ればいいじゃないですか」
「!!」
「陛下は、相手の気持ちを無視して無理やり娶るような方ではありません」
「…………」
エリューは黙ってライネフの言葉を聞いていた。
「……偉そうに、たくさん言って、申し訳ありません」
「本気で向き合った結果の道なら――僕はどんな道でも応援します」
そう言うとライネフは立ち上がり、廊下へ駆けて行った。
エリューは固まったまま、ライネフの足音を耳で追った。




