第十三話 レグルスと武術訓練
エリューとレグルスは向かい合って訓練場の床に座り込んでいる。
「――これ?」
疑り深い表情でカードを指差し、レグルスを見る。
「はいエリュー負け〜、残念こっちでした〜!」
「あぁぁぁーーなんっでなの、勝てない! あぁぁー!」
カードを上に舞い散らせ、仰向けに倒れ込む。
「今日の水汲みダッシュもエリュー担当な」
「言われなくても分かってます〜負けたから〜」
「今日の水汲みダッシュもエリュー担当な」
「二回言うな!」
エリューはカードを片付けながら悪態をつく。
レグルスは笑いながら道着の紐を締め直す。
二人は向かい合って構える。
「今の勝負で私の攻撃力は倍になってるから」
「気のせいだよ」
エリューが先制して蹴りを放つ。
レグルスは軽く身体を倒してかわす。
エリューは膝を曲げ、斜め上に手刀を入れる。
レグルスは肘で受け止める。
エリューは反対の手で突きを繰り出す。
レグルスは手の平でエリューの突きを握り、逆の手でエリューの腹を勢いよく持ち上げる。
エリューの身体は逆さまになり弧を描く。
レグルスに腰を支えられ、ふわっと床に倒される。
「……あぁぁーー悔しいーー!」
レグルスは微笑み、腰をかがめてエリューを見下ろした。
「エリュー」
「気のせいだよ」
「なんなのもーー腹が立つーーー!」
「水汲みダッシュ行ってこい。はい!」
パン! と手を鳴らす。
「ぃいってきまぁぁぁすっっ!」
エリューは起き上がり、全力疾走する。
息を切らしてエリューが戻ってくる。
片手に持った水差しいっぱいに水が入っている。
「ごくろうさん」
「はぁぁー。なーんで勝てないんだろ!弱いからか」
首を傾げながら歩いてくる。
「弱くないよ。強いよ充分。帝国武術団に余裕で入れるぜ」
エリューも床に座り、グラスに水を注ぐ。
「こんな手加減されて負けてるのに?」
「俺がめちゃくちゃ強いからな」
「ふっ」
エリューは鼻で笑った。
「初日だけは勝ったけどね」
「王家の王女様にお怪我させたら大変だろ。どんなもんか計ってたんだよ」
「でも、勝ったけどね」
見下ろしながらレグルスにグラスを渡す。
「もう二度とねぇよ」
レグルスが睨む。
「ふふ」
エリューは笑い、グラスの水を飲んだ。
「明日から戦線いくんだっけ」
「おぉ。次のエリュー様のご練習お付き合いまでな」
「すごい嫌味」
「うそうそ楽しいよ」
「すごい薄っぺらい」
「エリュー、楽しいよ」
「あーなんか腹が立つわぁ!」
エリューはグラスの水を飲み切って立ち上がる。
「次回こそカードも勝負も勝つぞー!またね」
エリューは手を振り、訓練場を出ていく。
「おう、またな」
レグルスは座ったまま手をかざす。
「笑えるなーあいつ」
レグルスは口元が緩んだまま、グラスの水をくるくる回した。




