第十二話 食事会
舞踏会の翌朝、スウィフト試験官が離れに訪れた。
前夜スイーツパーティで盛り上がったバルクシア一行は、カーツ以外まともな格好をしていない。
「あ、もうこんな時間……不格好ですみません……」
「ただの伝達です、お気になさらず」
「急なのですが、本日 皇帝陛下と皆様の昼食会を開くことになりました」
「昼食会……」
「はい、陛下は本来なら早朝に戦地に赴かれる予定でしたが、今朝は魔物の出現が少なく、戦況に余裕があるそうなので、お昼は皆様との交流の時間とされました」
(ほんと忙しい方なんだなぁ)
時間になると、候補者達は宮殿の食堂に招かれた。
美しい絵が描かれた壁面、長テーブルにクロスが敷かれ、燭台や花が飾られている。
「このお食事会は試験ではございません。皇帝陛下との親睦を深める機会と思って、楽しんでいただければ幸いです」
「お席の順も、特に指定はございません。お好きなお席にお掛けください」
候補者達はサッと希望の席へ動き始めた。
皇帝のすぐ隣の席は帝国公爵令嬢のデリーサとタリエラが手に入れた。
2列目にはアルメデスのフィオーネとシーカントのルミエル、少し離れてレーラが座り、向かいにはアステナが腰を下ろした。
(あ、一番いい席が空いている……)
エリューはレーラの向かいに着席した。
少しすると、皇帝が食堂にやってきた。
アーカーが傍に控えている。
候補者達は一斉に席を立ち、深く腰を落とす。
「昨宵は楽しめただろうか」
みなそれぞれ返事をする。
エリューは笑顔で頷く。
皇帝が着席すると、候補者達も席についた。
「ボルジャック伯爵より、陛下へご挨拶を、との言伝を預かっております」
デリーサが片手を胸元に当て、告げた。
「わかった」
――前菜が運ばれてきた。
エリューは美しく盛られた前菜を満遍なく見つめている。
「――シーカントの大橋の完成式には参加できず申し訳ない」
「とんでもないことです。お忙しい中でのご配慮、痛み入ります」
ルミエル王女は誰が式典に参列していたかを話した。
エリューは前菜を口に運び、片手を口に当て瞳を輝かせている。
「アルメデスでは新しい演劇が好評と聞いた」
「はい、新設の大劇場の開幕演目で連日満員のようです。わたくしも観に行きましたが――」
フィオーネは劇の感想を楽しそうに話す。
エリューは小声でレーラとポタージュの話をしている。
「エデュバラではそろそろ"砂神祭"が開かれる時季だろうか」
「我が国の祭事をご存じでいてくださるとは、光栄でございます。来月から3ヶ月間の開催で――」
アステナは毎年砂神祭の準備で起こる面白い騒動を語り、候補者たちから笑いが起こった。
エリューもアステナの話に聴き入り、結末に大笑いした。
「レーラ王女の兄君とは幼い頃、南の予防線視察で相対したことがある」
「兄君より伺っております。幼少の頃から陛下の剣技は群を抜いていたと、兄君も深く敬服しておられました」
エリューは魚料理を口にするたび、目を閉じて息を吸っている。
「…………」
皇帝はエリューを見て口を開きかけ、
「――アレクセイの調子はどうだ」
隣のタリエラに質問する。
「はい、陛下に稽古をつけていただいた日から、一層熱心に励んでいます」
「よほど嬉しかったようで、先日は――」
エリューはそっと低めに手をあげ、壁際に控えていたシェフを呼び、ステーキについて何かを聞いている。
「――では、戦地への支度をするため失礼する」
食事を終えると皇帝は席を立った。
候補者たちも席を立ち、腰を落として見送る。
アーカーが後ろについて食堂を出る。
「――とても有意義な会になりましたね」
「お前から各国の情報を聞いておけて、助かった」
「お役に立てたなら幸いです」
「あ、お一人だけレストランに来ている方がいらっしゃいましたね」
「…………」
「シェフが感激しておりました。厳選して用意した帝国料理をあんなに味わってくださるなんてと」
「…………」
「この後、厨房の見学にお越しだそうです。お肉の熟成庫を見てみたいんだとか」
「…………」
皇帝は支度を終えると、宮殿の厨房へ向かった。
入り口の近くまで来ると、声が聞こえてきた。
「――こうして袋に入れて、並べて1ヶ月おくんです」
「一ヶ月!?そんなに時間かかるんですか!」
「こういう下準備の積み重ねで、味の深みが変わりますのでね」
「もう、ほんっとうに美味しかったです!」
――皇帝は踵を返し、馬房へと向かった。




