第十一話 舞踏会の片隅
「姫さま、どうしたんですか!?」
「お加減が悪いのですか?」
リーマルがエリューの元へ駆け寄ってきた。
「ううん、大丈夫。ちょっと転びかけちゃって」
「もうお帰りになるんですか」
「そう、試験に必要なダンスは出来たし……」
「そうだ、大変なんだよ! 中にスイーツコーナーがあって、バナージャとかが出店してたの!」
「なんですって!?」
「食べられましたか!?」
「食べた! バナージャのケーキ食べた!」
「エリュー様、お待たせしました」
エリューはアーカーの声に振り返り、目を見開いた。
「え……まさか――」
アーカーの隣に、両手に紙箱を抱えたコック帽の男が立っている。
「ご希望のお持ち帰りスイーツですよ。全店包んでくれたようです」
「きゃあぁぁーーー!」
「うそ、やば! えっどうしよう!」
「ありがとうございます!」
3人の喜びの声が廊下に響く。
「カーツが持った方がいい! 安全よね!」
「呼んできます!」
「パーティだ! パーティしよ!」
アーカーがちらりと背後へ目をやる。
大きく振り返り、跪く。
「皇帝陛下」
その言葉でエリューは我に返り顔をあげ、すぐさま深く腰を落とす。
「えっ……!」
リーサは喉の奥で声を発し、マルサと共に膝を折る。
「楽にしていい」
皇帝は片手を軽く上げた。
「国の者たちが無礼をした。すまない。怪我はないか」
「とんでもないことです。怪我もなく元気です」
エリューは顔を上げたが、皇帝の顔は見られず、喉元あたりに視線を向ける。
「もう離れへ戻ると聞いた。慌ただしい日々だろうが、無理のないよう――」
「ありがとうございます。貴重なお時間を、すみません」
喉元へ向けてニコッと微笑み、再び腰を落とす。
皇帝は大広間へ足を進めた。
エリューたちは見えなくなるまで見送り、姿が消えたのを確認してホウッと息を吐いた。
「よし、帰ろ!」
皇帝は大広間に入るとそのままバルコニーへ進んだ。
エリューたちが跳ねるような足取りで離れへ向かっている。
笑い声がかすかにバルコニーへ届く。
――彼女は、こちらを向いていない。
皇帝は跳ねて遠ざかる影を、しばらく見つめていた。




