第十話 試験②ダンス
高壇の周りには皇帝へ挨拶を求める人々が集まり、ちょっとした人だかりになっていた。
皇妃候補たちもその近くから離れようとしない。
このあと音楽が流れれば、皇帝がフロアへ降りてくる。
――最初のダンスを狙っているのだ。
「バヌージャのケーキがお好きなんですか?」
エリューはケーキを口にしたまま振り返った。
「……!」
慌てて片手を前に出し、「待って」と合図する。
「ははっ声を掛けるタイミングが悪かったですね。すみません。この後のダンスのお誘いをしたくて、はやる気持ちを抑えきれませんでした」
(ダンスのお誘いきちゃった。え、どうしよう)
口の中のものを飲み込むと、ナプキンを口元に当てた。
「僕はガーシュタルク帝国、メールトン公爵家のジュードです」
(でも試験だから1曲は踊らないといけないよね……)
「あなたのお名前も伺ってよろしいですか」
(皇帝陛下や宰相さんと踊るより目立たなくていいかも!)
「すみません、飲み込みました。バルクシア王国王女、エリューです」
ジュードはエリューの手を取ると跪き、手の甲を自分の額に当てた。
「よろしければ、僕と踊ってくれませんか」
(わ!わ!なにこれ帝国式!? 普通に返事したらいいの?)
「は、はい。よろしくお願いします」
「良かった! では中央へ行きましょう」
「あ!いや! できるだけ端が良いです!」
ほどなくして音楽団が導入音楽を奏で始めた。
皇帝は立ち上がり、階段を降りていく。
皇帝との最初のダンスは帝国公爵令嬢デリーサが勝ち取った。
皇帝に手を取られ、誇らしげな笑顔でついていく。
――フロアから感嘆の声がする。
人々の視線は皇帝ではなく、エリューに向けられている。
「なんだ……どこの王女だ」
「見たことがない」
「なんと美しい……」
「光の粒が舞っているようだ……」
曲が終わり、拍手がわく。
「……なんだか魔法にかかったみたいな時間でした」
ジュードは夢見がちな顔で呟く。
エリューの周りには片手を差し出そうとする貴公子たちが集まっている。
「ぜひ次は私と……!」
周りより一瞬早く声をかけた貴公子が、エリューの手を取った。
エリューはおずおずと微笑み、お辞儀する。
二曲目の演奏が始まった。
「まただ……彼女が踊ると光がこぼれるようだ」
「何の魔法だ?」
曲が終わると周りの貴公子たちが一気に押し寄せた。
「次は私と!」
「僕ともダンスを!」
エリューは揉みくちゃになり、体が後ろに倒れる――
グイッ!
エリューは腕を掴まれ、腰を支えられ元に戻る。
「一旦避難しましょう!」
ライネフがエリューの手を引き、貴公子たちの壁をすり抜け廊下へ駆ける。
「ライネフ……ありがとう……!」
弾んだ息で呟く。
「お怪我がなくて、何よりです」
「エリュー様!」
アーカーが走ってきた。
「危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありません」
「ライネフのおかげで危険じゃなかったです」
「まさかこんなことになるとは……」
「あはは〜そんなに誘いやすそうに見えたんですかね」
「ダンスの時間が終わるまで別室で過ごしましょうか」
「それなら……今日はもうお暇しても良いですか?」
アーカーとライネフがエリューを見る。
「二曲踊れたし、試験は済みましたよね」
「そうですが――」
アーカーが大広間へチラッと視線をやる。
「……分かりました。でも、このまま少しお待ちいただけますか。ライネフ隊長、エリュー様を頼みます」
そう言うと大広間へ戻って行った。




