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第122話 立太子の礼

ヤイトとエリュー達はシューヴァニル城の厨房へやってきた。


「まずは作って、食べてみましょう」

 ヤイトは早速、野菜の下ごしらえを始める。


「野菜洗いはセリクとレグルスだね! ……皮剥き、できる?」

「無理です」

「やったことねぇよ」

「だよね。皮剥きと切る担当はリーマルにしよう」


 4人はヤイトの手つきを見ながら、やり方を学ぶ。

 

 

 次にヤイトは前菜の準備を始めた。

 

「紋章の図と、敷き詰める順番を見ながら、切り口が紋章になるように敷き詰めていきます」

 四角い箱の中に、手際よく野菜を敷き詰めていく。

 

「俺はこういう細かい作業が得意だぜ」

 ジェノフが指をポキポキ鳴らしながら、前菜の担当を申し出た。

 ジェノフはヤイトの隣で同じように野菜を敷き詰めていく。

 チーズを溶かした液を流し込み、冷水に浸して冷やし固める。


 

 次はスープだ。

 

「この野菜と薬草をよく刻んですり潰し、そのあと漉します」

 

 エリューが手をあげた。

「私がやると、下ごしらえ早く終わりそう」

 

 エリューは野菜をボウルに入れると、手でフタをする。

 

 ブワッ! ギュギュギュギュ!


 ボウルの中に真空の刃を巻き起こし、一気にペースト状にする。

「味は、どう?」


 ヤイトはペーストを匙に取り、口に入れる。

「……いい感じです!」


「よし! じゃ、わたしスープとソース担当する!」



 次は魚料理だ。

「ウロコの火入れ加減が要です」

「長年やってるオッサンに任せておけ」

 ルトが手をあげる。


 

 肉料理はザラが希望する。

「どの程度の火入れ具合が良いか教えてくれれば、再現するわ」

「分かりました、火入れはこのくらいです」

 ヤイトが肉を焼いて見せる。

 ザラは真剣に火と肉を見つめたあと、

「覚えた! 焼いてみる」

 同じように仕上げてみせた。


 

 残すはデザート。

 ヤイトは一口菓子を並べた。

 焼き菓子、ムース状のもの、固めたもの、透き通ったものがある。

「1つ1つ、並行して作ります」

 残っているのはマウジだ。

 マウジは笑顔で口を開いた。

「私、実は元洋菓子職人です。担当させてください」


 ヤイトは監督兼チーズ担当、アンゴルは全体の補助に回る。

 

 みな、自分の担当の調理に取り掛かった。

 

 セリクとレグルスは野菜洗いが終わると、他にできそうな事を探した。

「配膳台にお皿を並べたりしましょうか」

 

 大きな食器棚を見上げてレグルスが言う。

「皿、すげえいっぱいあるな……どの料理がどの皿か書かねえと分かんなくなるな」


 2人は確認しながら食器に印を置いていく。


 洗い場のカーツは、次々に送られてくる洗い物を予想以上の速さで処理していく。


 

 ジェノフは冷やし固めた前菜に優しく刃を入れる。

 エリューは無心で漉し器にヘラを当てる。

 ルトとザラは腰を落とし、真っ直ぐ火を見つめる。


 シェイドは厨房の隅に立ち、それぞれの真剣な眼差しを静かに見つめていた。



「出来たーー! 食べよーー!」


 厨房の配膳台に並べ、みんなで試食する。


「きゃあぁぁ! 美味しいぃぃー!」

「歯応えが絶妙だな」

「うめぇっ!」

「チーズの概念が変わりました……」

「なんだこれっ、すげぇなー!」


 達成感も上乗せされ、盛り上がる一同。


 そこへ、不機嫌な声が流れ込んできた。


「諦めたと思ったのに、悪あがきか」


 厨房の入り口を見ると、数人のフォーンが立ち並んでいる。


 ヤイトはフォーン達の前に進み出る。

 

「ヴァノン料理長……すみません。やはり、僕が厨房に立たせていただきます」


「こんなワケの分からん連中に、立太子の礼の祝宴を任せられると思うのか」


「キャルビノレ殿下からは許可をいただきました」


「では、無謀な挑戦で大失態を犯すがいい。祝宴を(けが)した罪で追放してやる」


「構いません」


「……なんだと? 脅しだと思ってるのか」


「それでも……殿下のご希望にお応えしたいです」


 ヴァノンは舌打ちした。

 

「生意気な半人前が……祝宴を成功させたところで、お前みたいな庶民がこの先、成り上がれると思うなよ……」


 ヴァノンはそう吐き捨てると、厨房を後にした。

 周りにいたフォーン達は戸惑いの表情を見せながら無言で去っていった。



 エリューがヤイトの背中に手を置く。


「当日までに、私たち出来る限り練習する。殿下の祝宴を、成功させようね!」




 

 

 ——いよいよ、立太子の礼が行われる日がやってきた。


 シェイドは、エリューとリーマルが考えた"人間の国の強くて美しい皇帝"の礼装を着せられる。


 黒と灰色を基調とし、詰襟の騎士服にグレーのサッシュ、半マントに剣帯を携える。

 

「……装飾品は苦手なんだが」

「ダメでーす。嫌がるだろうから色味は抑えたんだから。ちゃんと皇帝らしく、サークレットくらいつけてもらいまーす!」


 エリューはシェイドの額にサークレットをおろす。

 3、4歩下がってシェイドの全身を眺める。


「……うん、いいね! 強くて美しい皇帝の出来上がり! じゃあ、参列の席はよろしくね!」


 そう言うとエリューは宮廷の厨房へ走って行った。


 

 厨房に入ると、既に料理の準備は始まっていた。

 みな真剣な顔で持ち場につき、作業に取り組んでいる。


「おはよー! みんな頑張ろうね!」

 エリューの声にみな顔を上げ、挨拶を返す。


「おはようございます!」

「おぅ、やってやるぜ!」

「姫さま、陛下の準備はできました?」

「うん、大陸一の皇帝らしく仕上がった!」

「良かった。こちらも頑張らないとですねっ」

 

 エリューも調理台につき、野菜を手に取った。

「よし、がんばるぞ!」



 

 ——玉座の間で、立太子の礼が開始された。


 国王は、王太子としてキャルビノレの名を高らかに宣言した。

 キャルビノレは国王の前に進み出て、跪く。

 国王はキャルビノレの頭に草冠を載せた。

 

 キャルビノレは向き直り、薬と毒をもって国を守ることを宣言した。

 その立ち居振る舞いは、各国の王たちに次代のシューヴァニルが華やかに繁栄することを予見させた。

 

 ——立太子の礼は滞りなく終了した。


 

 列席者の注目は、キャルビノレからシェイドへと変わっていく。


 はるか昔に交流が途絶えた、人間の国の皇帝が列席している……

 "上の世界"への道が開けたのか……?

 シューヴァニル国とは、いつから繋がっていた?


 みな、シェイドに探るような視線を送る。

 シェイドは視線を感じながらも、凛として佇む。


 列席者たちは祝宴殿へ移動を始めた。

 天井が高く、彫刻の施された立派な柱が立ち並び、赤い絨毯が敷き詰められた廊下を進んでいると、シェイドの隣へ一人の女性が歩み寄ってきた。


「……キャルビノレ殿下は非常に聡明でいらっしゃったわね。初めてお会いしたわ。あなたは殿下と交流が長いのかしら」


 絡むような、艶のある声。

 豊かで長い巻き髪を片側に流し、身体に沿ってピッタリとしたロングドレスを纏っている。


「期間は浅いが、お互い信用を預け合える関係は築いている」

 シェイドは視線を前に向けたまま答えた。


「まぁ素敵。私もあなたとそんな関係を築きたいわ。人魚の国・ヒュカリマの女王サルヴァよ」


 人魚と聞いて、シェイドは一瞬 女王の足元に視線を落とす。

 ドレスの下に隠れているが、人間と同じ二本足で歩いているように見える。


「あなたは?」


「人間の国・ガーシュタルク皇帝、シェイドだ」

 

「王太子かと思ったら、皇帝なのね。人間がこの地に訪れるなんて、何百年ぶりかしら。色々聞かせて欲しいわ」


 祝宴殿には大きくシューヴァニルの紋章が掛けられ、花や薬草で華やかに装飾されている。


 列席者は大きな円卓の席へそれぞれ着席した。

 シューヴァニル国王とキャルビノレも着席し、国王から口上が述べられる。


「此度は遠路はるばる、我が国の立太子の礼を見届けに参集され、感謝申し上げる。各国の代表が集うのは久しい。この機に更なる友好を深められる事を願う」

 

 国王が杯を掲げる。

 列席者も杯を掲げ、祝宴が始まった——

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