第121話 王太子との謁見
料理人を引き連れたエリュー達は、ヤイトの小屋へ向かう。
途中、魔物に遭遇すると、エリューとセリクは魔法で料理人たちを守る防護壁を築き、シェイドとカーツは剣で敵を薙ぎ払い、レグルスは素早く蹴散らした。
「……初めて、見ました。これが魔物なんですね……」
アンゴルは震える手を握りしめながら言う。
「戦線では遠巻きに見てたけど、こんな間近で見ると迫力ね……」
ザラは膝を抱え、小さく丸まっている。
「戦線に立たれる皆様には、本当に頭が上がらない思いです」
マウジはいつも通りの落ち着いた口調で話す。
「いやぁ〜俺は陛下の戦いっぷりに惚れ込んだぜ! 目の前で見ると感動が違うな!」
ジェノフは腕を振りながら興奮気味に話す。
「リーマル、大丈夫?」
エリューはリーマルに声をかける。
「もちろん、大丈夫です!」
「でも、姫さまアレと戦えるの、改めて凄いです」
「ねー。しんどい訓練の日々が、意外と人生の役に立ってるよね」
ヤイトの小屋についた。
大人数すぎて、小屋では料理の説明は難しい。
ヤイトはサッと荷物をまとめると、
「フォーンの国へ向かいましょう」
と言った。
一行にヤイトが加わり、フォーンの国目指して進みだした。
「この地には色々な種族がおり、それぞれ国と領域を持っています。頭に角が生えた角人、背に白い羽が生えた翼人、黒い羽が生えた魔人、巨人、ダークエルフ……海には人魚の国があります」
「我々フォーンは力は強くありませんが、薬と毒の知識が豊富なので、各国から攻め入られることなく均衡を保てています。立太子を控えたキャルビノレ殿下は聡明な方で、「毒冠の貴公子」と呼ばれています。
歴代の王でもなし得なかった、魔法として毒を扱う技を得られました。それにより、フォーンの国の外交的な重みが跳ね上がったのです」
「なので、今度の立太子の礼では各国の代表が列席します。キャルビノレ殿下の真価を見定める意味も含めて……」
「魔法として毒を使う……つまり、広範囲に毒を行き渡らせることができる?」
「その通りです。各国との境界にそびえる"魔物の山"から数千の魔物が湧き出した際、殿下は一瞬のうちに全ての魔物を麻痺させました。生かすも殺すも殿下次第――その力を目の当たりにした各国は、フォーンの国への対応を変え始めています」
「……なるほど。とても重要な式なんだね。ヤイトの料理はその式に相応しい格があると思う!」
「……ありがとうございます」
フォーンの国【シューヴァニル】に到着し、ヤイトはキャルビノレとの謁見を申し出た。
キャルビノレはすぐに場を設け、エリュー達を招き入れた。
エリュー達は謁見の間へ進んだ。
「ヤイトが人間の客人を伴って帰ったと聞いて、政務を後回しにして来た。シューヴァニルへようこそ」
キャルビノレは朗らかに笑い、出迎えた。
まだ若い王子でありながら、その姿からは年齢以上の威厳が感じられる。
「迅速なお取り計らいに感謝申し上げます。人間の国・ガーシュタルク帝国から参りました、エリューと申します。本日はヤイトさんのことでお願いがあり、参上いたしました」
エリューはスカートの裾を持ち、腰を落とした。
洗練された美しい所作に、フォーン達が目を見張る。
「私たちは別の世界からこの世界を知るために訪れました。途中、道に迷っているところをヤイトさんに助けられたんです」
エリューはヤイトに目線を向ける。
「空腹の私たちに料理を振る舞ってくださり、その際この度の事情を知りました……ヤイトさんが料理監督を辞退したのは、事情があって料理人の皆さんが動けないからなんです。私はヤイトさんの料理をいただき、監督をするべきだと強く思いました。もし私たちが共に厨房に立つことで実現できるのならと考え、料理人を集めました。でも、得体の知れない者が厨房に立つなど、簡単に許可を得られるものではありません。まずは全員でお目通りの機会をいただこうと、参上した次第です」
説明を終えると、エリューは再び軽く腰を落とした。
キャルビノレはエリューに優しい目線を向けた。
「エリュー殿、ヤイトと我が国のために骨を砕いてくださり、感謝申し上げる」
「ヤイトのチーズは歴史に類を見ない傑作だ。私は毒の脅威を持つことで国の平和を得ようとしているが、ヤイトのチーズは幸せと笑顔を作り出す。私には持つことのできない憧れだ。立太子の礼にて各国にふるまい、この幸福感を共有することは平和に繋がると思っている。だからこそ、ヤイトが厨房に立てるのであればいかなる方法も許容したいところだが……」
キャルビノレは言葉を切る。
「エリュー殿の言う通り、外部の者が厨房に入り、各国の要人の食事を作るというのは、反対するものも多いだろう……何か妙案はないものか」
顎に手を当て、軽く俯いた。
「恐れながら殿下、わたしからひとつご提案がございます」
エリューは隣に立つシェイドへ視線を向けた。
「こちらは 私たちの国、ガーシュタルク帝国の皇帝、シェイド陛下です」
「皇帝……?」
キャルビノレや側近たちに驚きの表情が浮かぶ。
謁見の間の目線がシェイドに集まった。
——確かに、纏う雰囲気がひと味違う。
「立太子の礼への列席を、お許しいただけますか。祝宴では皇帝陛下にも、私たちが作る料理を召し上がっていただきます。帝国皇帝が同じ料理を口にすることが、私たちが怪しい者ではない証になると思うのですが……いかがでしょうか……」
キャルビノレは目を見開いた。
「……なるほど、良き提案だ。これで問題を解決させよう」
「私は毒を司る者だ。皿に毒が盛られていれば見抜けるし、その毒を消すこともできる。従って懸念点は毒そのものではなく、信用のほうにある。しかし、皇帝陛下が同じ皿を口にするなら、反対派の理解も得られるだろう」
キャルビノレは立ち上がった。
「賓客の追加をすぐに伝え、準備を」
側近に指示を出すと、ヤイトの前へ進み出た。
「ヤイト。改めて、私の立太子の礼で祝宴料理を担当して欲しい。そして、はるばる遠き国から馳せ参じてくださった友よ、どうかヤイトの助けとなっていただきたい」
エリューと料理人たちは顔を見合わせ、パッと明るい表情へ変わる。
「ありがとうございます!」
ヤイトも笑顔を見せ、キャルビノレへ跪いた。
「殿下、ありがとうございます。祝宴の料理を、ぜひ私に担当させてください」
シェイドは キャルビノレに向けて帝国流の礼を捧げる。
キャルビノレも シェイドへ礼を返した。
「シェイド皇帝陛下、ご足労ありがとうございます。陽の気に包まれた、眩しいご一行だ。危険を承知でヤイトのためにわざわざ別世界から馳せ参じてくださった、その心意気だけでも信に値します。祝宴の際にはぜひ、人間の世界の話をお聞かせください」




