第117話 闇の円
"先の地"の裂け目が現れた場所に、計測班が到着した。
——当初、隊員30名で交替の編成を組み、24時間の監視と計測をする案が出されたが、戦線の人員を圧迫するとシェイドが却下した。
「俺が入れば半分以下で済む」
シェイド、レグルス、ゼリアと騎士団1番隊から10名が計測班に選出された。
「なっがい1日が始まるなー、暇つぶしは色々用意したけど」
レグルスは荒れ地の方を向き、あぐらをかいて座る。
「レグルスくん、遊び始めるのは間隔が掴めてきてからにしてね」
「分かってますよ、ゼリア隊長」
「陛下、"闇の円"特定班も、今夜稼働するそうですね」
「あぁ、この間の満月は雲が薄く、出現しなかった。今夜は半月で、雲がある」
「夜間は陛下が岩場にお向かいになれるよう調整しますね」
「すまない、助かる」
「エリューのやつ……やっぱ岩、開きましたね」
「あぁ、俺の爪が甘かった」
しばらくすると、地面が割れ、片側が大きく下がり、たくさんの魔物が転がり出てきた。
言葉で聞いていたものを、実際に目の当たりにした騎士達は、それぞれ声を漏らす。
「……ひぃっ」
「うわぁ……」
「すげぇ」
魔物達は基本、吐き出された方向へ進んでいくが
時々群れから外れて逆方向へ進むもの、脇で見ている計測班に気付き襲いかかってくるものがいた。
「温泉旅行で出会った奴らは迷子か」
襲ってきた魔物を蹴りつけながらレグルスが失笑した。
「今までの経験で、魔物の襲来があった1時間後に次が来ることは殆どない印象だ」
「"吐息"は最短で何時間あくのか掴めたら、戦線の休憩時間が回しやすくなりますね」
「空き時間に第三戦線の温泉まで行けるかもしれねーな」
——およそ4〜5時間おきに"吐息"が発生した。
その都度、開いている時間や出てきた魔物の数、種類などを記録する。
「ある程度の規則性はあるが、きっちり決まっているわけじゃないな……本格的に調べるには、長期の測定が必要だ」
「そうですね、満月と新月など環境の違いもあるし、骨が折れそうですね」
——夜が深まってきた。
その時間の"吐息"の発生を待ち、魔物が戦線へ向かったのを確認してシェイドとレグルスは岩場に移動した。
岩場では"特定班"が岩に囲まれた空間を囲んで座っていた。
その背中をカーツ、ライネフが護る。
「エリュー様、陛下がお越しです」
ライネフが声を掛けた。
座っていた面々が立ち上がり、こちらを向く。
ドールキン、セリク、研究員が腹に手を当てて腰を折る。
エリューは軽快な足取りで近づいてくる。
ノーム達は立ち上がったが何やら討論中でこちらは向いていない。
「計測班 お疲れ様! どうだった?」
「4〜5時間に一度、裂け目が開く。すると1日4〜5回だ。戦線での印象とも合致する。どういう条件で間隔が変化するかは長期計測が必要だ」
「陛下が計測にずっとつきっきりは難しいし、やっぱ人員割くしかなさそうだな」
「そっかー、戦線の人員はなるべく減らしたくないよねぇ……」
「エリュー様、月が隠れそうです」
「はいはーい!」
みな、岩の空間に注目する。
月を見上げると、大きくて分厚い雲が近づいてきている。
「もうちょいだね」
雲が月にかかりはじめた。
フゥッとあたりが一段暗くなる。
——岩場に巨大な闇の円が現れた。
「……出た!」
「うわぁ」
「なんと……これは!」
「よし、まず1つ目、光を当ててみよう」
驚きの声を出す一行をよそに、カプタが淡々と調査を開始する。
ランタンを近づける。
光が当たった部分は闇が消え、地面の魔法陣があらわになる。
「光を当てると消える」
チェレンがメモを取る。
「小石を投げるよ」
カプタが円の中心に向かって小石を投げる。
小石は弧を描いて闇の円の真ん中に向かう。
闇に到達すると音もなく姿を消した。
「小石は消える」
再びチェレンがメモを取る。
「姫さま、水をよろしく」
カプタが言うと、エリューは闇の円の上に水の玉を発生させ、落とす。
水の玉は地面に触れると跳ねることなく、下から少しずつ闇に呑まれていった。
その直後、円の上で水がバシャバシャと跳ねたり消えたりした。
光を当てると魔法陣に水溜まりができている。
その後も色々と実験をする。
月はまだ大きな雲の中にいた。
「光以外のものは大体消えたね」
「水は全部じゃないけど、残った」
「なんで水は残ったんだ?」
レグルスが疑問を口にする。
「この魔法陣は、闇が現れている間、この地面と別の地面を交換している。触れたものは別の地面にいってるってことだ。水は一旦全部 別の地面にいったあと、跳ねた分が戻ってきたんだ」
「2回触れたってことか」
「そう」
「別の場所へ行ける魔法陣で間違いなさそうだね。問題は、どこと繋がってるか……おっと」
エリューが円の前でしゃがんだ姿勢のまま後ろを振り返り、バランスを崩して後ろに手をつく——
「あ!」
隣にしゃがんでいたセリクが咄嗟に反対の腕を掴み……
二人の姿が消えた。
「エリュー様! セリク!」
その瞬間、月が雲から出て辺りが一段明るくなる。
闇の円はフッと消え、魔法陣の地面に戻った。
シェイドの顔からスーッと血の気が引く。
レグルスは苦い顔をする。
「……おっと、じゃねぇよ、バカ……」




