第116話 魔法陣特定班
アーカーは円卓の間に関係者を集め、会議を開いた。
調査隊の昨夜の出来事を報告し、荒れ地の裂け目が日に何度、どのくらいの頻度で発生するのかを調べる"計測班"、岩場の魔法陣には何が描かれているのかを調べる"特定班"を組むことを決めた。
エリューはセリクと共にノームの離れへ向かっている。
「先の地調査、さっそく成果があったんですね」
「うん、でも、最初なーんにも見つからなくて。ただの温泉旅行で終わりそうでね、困ってた矢先の、凄まじいお土産だったよ」
「温泉……お土産……ちょっと、何の話か分かりません」
「あはは〜セリクも一緒に行ったら分かるよ」
離れではノーム達が"印の書"を部屋の真ん中にかき集めていた。
ノーム達は二人に気付かず作業を進めている。
「皆さんに、特定班の件についてお知らせに来ました」
誰も振り向かない。
「わぁ……やる気のオーラが見える」
「印の書全部は持って行けないぞ」
「魔法陣を描き写してこっちで調べれば良いのでは?」
「移動の時間がもったいない」
「だが現地に向かえる人数には限りがある」
「全員で向かえば印の書も全冊持っていける」
「我々の護衛の人手がかかろうが」
「そうだメイワクだ」
「じゃ何人行けるんだ?」
「エクシオピラトスが帰ってこないとわからん」
「帰ってきたらすぐ行けるのか?」
「はーーいみんな、聞いてくださーい!」
エリューが声を張ると、やっとノーム達が振り返った。
「行くのは明日です。岩が大きいので登るのにハシゴが必要なの。他にも備品の準備するから、今日はみんなも準備して待っててね」
はやる気持ちを抑えきれないノーム達をなだめると、二人は次に魔術研究院へ向かった。
「そういえばセリク、久しぶりのお休みは、羽伸ばせた?」
「いや……実家に帰ったり色々してたので、あまり」
「実家帰ってたんだ。セリクは兄弟いるの?」
「兄が2人います」
「そうなんだーお兄さんは何してるの?」
「あ、こないだ戦線にいた魔術師のローヴァーが兄です」
「……えぇーーっ!?」
魔術研究院では特定班の選出会議が終わったところだった。
「ドールキンさん、決まりました?」
「おぉ、エリュー様。ちょうど今、会議が終わったところです。特定班は、私を含めた3名で参ります」
「わぁ!」
「ほっほっ、長年研究職でしたが、冒険に憧れがありましてね。人生最後の冒険の機会と思い、私も同行させていただくことにしました。古の魔法陣、ぜひ拝見させていただきたい」
「えー素敵! ドールキンさんと一緒に冒険、楽しみにしてますね!」
(……ドールキン院長が大伯父というのは、もう少し黙っておこう)
セリクは2人のやり取りを無言で見守った。
——翌朝。
魔法陣特定班が岩場へ向かって出発した。
エリュー、セリク、カーツ、ライネフ、
ノームから4名、ドールキンと研究員2名が同行している。
岩場につくと、まずハシゴを立てかけた。
待ちきれないノーム達がパタパタとハシゴを登っていく。
岩のてっぺんにぴょこっと顔を出すカプタ。
「これか。雑草が邪魔だな」
「草を刈る時間がもったいない。見えるところから解読していこう」
別の岩にハシゴをかけ、研究員も登る。
研究員は魔法陣を慎重に描き写していく。
エリューとドールキンは闇の円が現れた地面を調べる。
「……おぉ! ありますぞ、魔法陣らしき跡が」
ドールキンは草を掻き分け、掻き傷のような地面の窪みをなぞる。
「……ここら辺の草は、一旦刈っちゃおうか。解読できないもんね」
エリューはしゃがんで地面に手を置いた。
白い光が丸く広がり、ザザザザッとあたりの草が一斉にちぎれ飛んだ。岩場を強い風が抜け、邪魔な草がふり払われる。
岩に囲まれた空間は地面が剥き出しになり、巨大な魔法陣が姿を現した。
「おぉぉ!」
ドールキンの目が輝いた。
「あった、あったぞ! 草原に埋もれた古の魔法陣を発見するなんて、夢のようだ!」
「ふふっ」
エリューは少年のようにはしゃぐドールキンを見て小さく笑う。
セリクは報告書にペンを走らせる。
カーツとライネフは魔物がいないか、周りを探索する。
ノームが2つの魔法陣を解読し、研究員が1つの魔法陣を描き写したところで、昼食休憩を取ることにした。
「1つ目は大体、"月の光のない暗闇で発動"みたいなことが書いてあったよ」
カプタがナッツをかじりながら言う。
「かなり古い魔法陣ね。指示を1つずつ分けて描いてる。だから沢山必要なのね」
ノームのチェレンが言った。
「魔法陣を見て、時代もわかるんですか?」
魔術研究員のハンナが卵を挟んだパンを持って言う。
「そうね、時代を追ってだんだん内容が効率化されていくから、形式で年代の予測がつくのよ」
「へぇぇ〜〜」
「じゃあ、この魔法陣はかなり古いんだ?」
「恐らく、古いと思う。ただ、解読不能な印が結構あるんだ。大陸じゃない、どこかのものかもしれない」
「それって……"先の地"かな」
「うん……かもね」
「じゃ、午後もカプタたちは解読、私たちは描き写しをして、日が暮れるまでに終えられるといいね。頑張ろー。カーツとライネフも、お付き合いよろしくね」
「お任せください」
食事を終え、それぞれ再び作業に取り掛かった。
——太陽の光が濃くなり、影を長く伸ばし始めた。
「……よし、読めた!」
カプタが手元の羊皮紙に書きなぐりながら、大きな声で終了を宣言する。
「お疲れさまーー! そしたら、描き写した魔法陣は帰ってから読むことにして、とりあえず帰りましょー!」
皆、馬に跨り、ノーム達を前に乗せ、進み始めた。
「どうする? 今日はここまでにして、解読は明日にする?」
「いや、この描き写しを持って帰ったら待機組に奪われて解読祭りが始まるよ」
「あはは、みんな待ってるんだね。じゃあマルモル作って持っていくよ。みんなで食べながらやろ!」
「——いや、それだと解釈が違う」
「"触れたものに効く"じゃないか?」
「それにかかる魔法陣はどれだ」
「"交換"か、"効果"のどっちかだろう」
「読み取れない部分に意味があるとすれば——」
ノーム特有の言葉の応酬が繰り広げられ、解読祭りは大盛況だ。
「あー、いいなぁ〜。一緒に混ざってあーだこーだ言いたいけど、読めないから加われない」
「あれが、やりたいんですか?」
「楽しそうだよね。セリク、加わってきてもいいんだよ」
「いや、僕は結論出てから見る、でいいです」
エリューとセリクは壁際でマルモルを頬張りながら
ぼそぼそと話した。




