第115話 先の地の秘密
シェイドとレグルスは草地のはずれに馬をとめ、荒れ地を見渡せる場所に腰掛けた。
「……ここで、何かが起こる?」
「わからない。ただ戦線では、ある程度の間隔を開けて魔物の群れがやってくることが多い。一定の周期で何かが起きるかもしれない」
「確かに。しばらく待機だな」
「あぁ」
「さっきの、うまかったすね。エリューの気をそらすの」
「……自分も行くと言う気がしていた」
「予想通り。でもあいつ、下手したら岩を開きそうで怖いすよね」
「分かる」
——エリュー、カーツ、ギスロムは岩場に到着した。
月明かりに照らされて、地面に大きな岩の影がいくつも浮かぶ。
「岩の傍は注意しろ。あのヘビがまた出るやも知れぬ」
「はい気をつけます!」
エリューは足元に気を付けながら、岩肌を注意深く観察する。
カーツはエリューの周りに注意を向ける。
3人でゆっくりと、大きな岩たちをぐるりと回り、確認していく。
「うーん……特に、印や模様は見当たらないかなぁ」
「基地へ戻るか?」
ギスロムが声をかける。
「……待って」
エリューは岩の上の方を眺めている。
「ねぇギスロム、お願いがあるんだけど……わたしのこと、肩車してくれる?」
「かたぐるま」
「肩に座ることです」
「……あぁ、岩の頂が見たいのだな。ならば肩の上に立つといい」
「いいんですかそんなことして」
「無垢な太陽は特別だと言ったろう」
「いつもありがとうございます」
エリューは深々とギスロムに頭を下げた。
靴を脱ぎ、座っているギスロムの背に跨る。
ギスロムは立ち上がり、片腕を曲げて足場を作ってやる。
エリューはその腕に足をかけて肩に乗る。
岩の上部を覗き込む。
「……ある! 魔法陣と水晶だ!」
——シェイドとレグルスは荒れ地の変化を待ち、様々な会話で暇つぶしをした。
「……やりづらい敵か。"浮き花"は軽すぎて剣で捉えづらい」
「分かります、あいつらピラピラし過ぎ。さっさと魔法で燃やして欲しい」
「今度 国民戦団から初陣で出るヴロイってやつ、本格的な雨男です。すんません、初陣の日も多分すげぇ降ります」
「皮のローブを大量に手配しておこう」
——やがて、その時は訪れた。
音もなく、地面に一直線のヒビ割れが生じる。
第一戦線から第三戦線まで横断する、とてつもなく長いヒビ割れだ。
片方の地面がみるみる下がっていく。
シェイドとレグルスは立ち上がり、身構える。
細長く、巨大な穴が見えてくる。
フシュゥゥゥゥ……と穴から強い風が吹き出し、魔物たちが転がり出てくる。
魔物たちは地面が下がって出来た坂を登る。
登り坂の先は、帝国方面だ。
下がった地面が段々と元の高さに戻る。
ピッタリ合わさると、ヒビ割れともども消えた。
「な……なんだ今の……!」
「魔物たちは、こうしてやってきていたのか……!」
——エリューはギスロムの肩に立って覗ける高さの岩を全て覗いた。
どれも魔法陣とクリスタルがあった。
3人は岩場を一望できる距離まで下がり、考える。
「大きくて確認できない岩のてっぺんにも、あるかもしれないよね」
エリューは大きな岩の上を指差す。
「すると、魔法陣がありそうな岩は全部で……8個ですね」
「これらは一体何の魔法陣だろうか」
「……魔物を呼び込む魔法陣?」
——分厚い雲が通り過ぎ、月を隠した。
辺りがふっと一段階 暗くなる……
「…………!」
エリューはギスロムとカーツの腕を掴む。
岩に囲まれた空間に、大きく円を描くように暗闇が広がる。
影というよりは、漆黒。
巨大な円の中は何も見えない。
3人とも言葉を失った。
月を遮る雲が過ぎ、再び月明かりが照らすと
闇の円は消え、草原に元の岩の影がかかった。
「……ぬぅぅ……」
「消えましたね……」
「……こっわ! なにあれ、凄い迫力……!」
「取り急ぎ、基地に戻って報告しましょうか……」
エリュー達が基地に戻ると、シェイドとレグルスは先に到着していた。
「……エリュー! 大丈夫か」
シェイドはエリューの姿が見えると駆け寄ってきた。
「うん大丈夫。でも、報告がある」
「こちらもだ」
一行は改めて焚き火を囲み、それぞれの場所で起きた事象について、アーカーも交えて報告した。
「地面が開いて、魔物が出てきたのですか……?」
「まるで大地が息を吐くような動きだった」
「そして、大きな闇の空間ですか……」
「穴なのか、影なのか、暗過ぎて分からなかった」
「ともかく、夜間調査は大正解でしたね。一度帰還いただき、今後の動きを検討しましょう」
——テントに戻ってからも、エリューはなかなか寝付けなかった。
先ほど見た漆黒の衝撃が何度も思い出される。
身体を起こし、テントから顔を出す。
焚き火の横で夜番をするシェイドの姿が見える。
エリューはテントから出て、シェイドの隣に座った。
「……眠れないのか?」
「うん、ここにいていい?」
「あぁ」
エリューが落ちている枝で焚き火をつつくと、火の粉がふわっと舞い上がった。
「荒れ地も、岩場も、大当たりだったね。さすがシェイド」
「1つは誤算だったが……」
「ん?」
「いや……」
シェイドは口をつぐんだ。
「……大地が開くのは驚くような光景だったが、今は納得している」
「そだよね。魔物が定期的に群れをなして来る理由がわかったね」
「魔法陣の方は、ノームに解読してもらおう」
「うん、次はセリクにも来てほしいな」
エリューは枝をぽいっと火に放り込み、シェイドの肩に頭をもたれる。
張りつめていた心が、少しずつほどけていく。
「地下迷宮じゃなかったのかぁ……あぁー、あの穴に飛び込むのは、勇気いるなぁぁー」
「調査、やめるか?」
「やめない。飛び込まないと進まないもんね」
「飛び込むかどうかは、魔法陣を解読してからの話だ」
「そだよねぇ……今考えても仕方ないか」
エリューは肩にもたれたまましばらく炎を見つめ、ウトウトとし始めた。
シェイドは月を見上げた。
雲ひとつなくなった夜空から、月はこちらを明るく照らし出していた——




