第114話 異常がない異常
一行は森を進む。
鬱蒼と茂っていた木々は少しずつ数が減っていき、日差しが入るようになってきた。
頭上に薄きみどり色のレースのような光が輝く。
森を抜けると、見通しの良い大地が広がっている。
手前は草地、その先は一面の荒れ地だ。
「奥の方は恐らく第三戦線だ」
「昨日泊まった岩山は、第三戦線の端にある岩山と繋がってるんだね」
「もう一周できてしまいましたね」
「ここまで完全にただの温泉旅行だったな」
「知りたい情報は内陸部に集約されているのでしょうか」
見慣れた風景へ歩みながら、みな所感を伝え合う。
シェイドが告げる。
「ここから内陸部の探索に移行する。草原に向かって進路を取る」
「了解」
一行は再び草原地帯を巡った。
大きな岩がいくつも佇む場所は念入りに回り込み、
何か目ぼしい箇所がないか確認した。
岩陰から"鉄ヘビ"が1匹、勢いよく飛び出してきたが、シェイドによって瞬時に輪切りにされた。
草原地帯から森の方へ移動し、歩いていない場所をくまなく探す。
太陽の位置が低くなってきた——
一行は探索を中断し、野営の準備に切り替えた。
森と草原の境い目に基地を作る。
それぞれ役割に慣れてきて、初日よりも早く支度が整った。
みな、いつもより少し重たい空気で焚き火を囲む。
「……まさか、地下迷宮も何もないとは……」
スープの器を片膝に置き、フィンがつぶやく。
「その方が怖いね」
エリューは両手でパンを持ち、かじる。
「魔物はどっから来てるんだって話だよな……」
レグルスは小岩を肘掛けにして、杯を傾ける。
「俺らが、どっか見落としたのか?」
「地下迷宮は、もう大昔に埋まったのかな」
「それだと魔物が出てくる説明ができないぜ」
「そっか……じゃ、みんな海岸からよじ登ってくるとか?」
「あーそれで手長像は弱ってたのかー、ってバカ」
「え、バカっていうほどバカな案でもないでしょ」
「だったら海岸線全体から息切れした魔物が続々と現れるだろ」
「……その光景は確かにちょっと……笑える」
皆その光景を頭に浮かべ、少し笑う。
「じゃあ、岩場の岩の、どれかが開いちゃうとか……」
「では、岩場に戻り調査しますか?」
「うーん……そう言われると開くわけない気がしてくる……」
エリューはシェイドを見た。
シェイドは荒れ地の方角を眺めている。
「シェイドは、どう思う?」
声をかけると、優しい表情でエリューに視線を返す。
「……戦線には毎日魔物がやってくる。みな地平線からこちらに向かって真っ直ぐ向かってくる印象がある。何かあるとしたら、荒れ地にあるのかもしれない」
「……なるほど」
「では、明日は荒れ地を探索してみますか」
「あぁ。 だが、その前に……レグルス」
「ハイ」
「今夜、ひと足先に荒れ地の様子を見に行きたい」
「了解。同行します」
「わたしも見に行きたい」
「エリュー」
「はい」
「エリューには岩場の様子を確認してきて欲しい。カーツとギスロム、同行してくれ」
「……うん、わかった!」
(うまいな)
(陛下うまい)
「岩場への同行、承知しました」
「任されよ」
「ゴルとフィンはこの基地を守備してくれ」
「はい」
「了解じゃ」
エリューは水晶玉を取り出した。
「アーカー、ぐるりと一周できた。内陸部もくまなく調べたんだけど、まさかの何もなしで、謎が深まってます」
「なんと……奇妙ですね」
「この後、夜間調査に出る予定。何かあったらまた報告入れるね」
「分かりました。くれぐれもお気を付けて」
食事を終えるとそれぞれ武器を携え、ゴルのランタンを手にする。
シェイドとレグルスは荒れ地へ、エリュー、カーツ、ギスロムは岩場へ向かって出発した。




