表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
113/125

第113話 雨と森の温泉

——翌朝。

 まだ雨は降っておらず、曇り空だ。


 朝食を済ませ片付けをしていると、ヘクレントが3匹現れた。

 ギスロムとフィンで対応する。


 魔物を倒し、しばらくするとポツポツと雨が降り出した。


 一行は革張りの天幕に入り、雨宿りをした。

 天幕は木の柱で屋根を支えた造りで、四方は開け放たれ、森の様子がよく見える。

 皆は円になって座り、それぞれ周りの気配に注意を払いながら休息した。

 

 エリューはカードの束を掲げる。


「じゃ、雨が止むまでカードゲーム大会ね! まずはみんなで出来る"数合わせ※"からー!」


 数合わせは、ギスロムが圧倒的な記憶力を見せて勝利した。


「ギスロム強い〜全部覚えてたの?」

「ふふん、この程度の枚数では負ける気がしないな」


 ゲームを終えるとカーツは立ち上がり、木の枝を屋根の内側から押し当て、溜まった水をバケツに流し落とした。

 フィンは革のローブをかぶり、馬の様子を見に行く。


 レグルスは片手でカードを跳ね上げ、鮮やかに切った。

「なにそれ私もやりたい」

「エリューがやると、撒き散らかしてビッショビショになるからダメー」

 エリューは少し唇を尖らせたが、反論はしなかった。

「……じゃ、今度晴れた日に教えて」

「いいぜ。出来ねぇと思うけど」


 一行は見張りとカードゲームを繰り返し、昼食をとり、談笑して過ごした。


 

「……おっ、止んできたな」

 ゴルが天幕から身を乗り出し、上を見上げる。


「もう出発できそうだね、まる一日潰れなくて良かった」

 革のローブを外しながら、フィンが言う。


 荷物をまとめ、天幕をたたみ支度をする。

 一同は少しぬかるんだ地面をゆっくり進み始めた。

 


 

「……あ、見て。大きな泉!」


 森の奥に、木漏れ日を受けキラキラと輝く水面が見える。

 水面の上にはうっすらとモヤがかかっている。

 

「幻想的だね」

 

 エリューは泉の水に手をつける。

「あっ、あったかい……これ、温泉!?」


 皆も泉に手をつける。

「ぬるま湯じゃな」

「温泉……初めて見た」

「入ろうぜ」

「えー、いいなぁー」

 

 一同の視線が一斉にエリューへ向いた。

 

「……そういえばこのチーム、エリューだけ女だな」

「盲点だったね。女性1人かぁ〜こういう時困るなぁ」

「困らずとも、陛下がいる。夫婦で共に入ればよかろう」

「共には……入らない……!」

「エリューが先に入って、陛下が見張り。交代して男ども入る、だな」

「そしたら私も入れる? やった〜じゃそれで!」


 

 後発メンバーは泉から離れて待機した。

 

 シェイドは泉とエリューに対し、完全に背を向けて立つ。


「わたし自然の温泉なんて初めて! フィンも初めて見たって言ってたね。シェイドも初めて?」

「あぁ」

 

「雨で濡れて気持ち悪かったから、良かったねー」

「……そうだな」

 

 シェイドは真っ直ぐ奥の森を見つめ、短く答える。

 

 背中の奥で、布が地に落ちる音がした。

 続いて、小さく湯音(ゆおと)が響く。


 シェイドは、ことさらゆっくりと深呼吸した。

 

「結構あったかいよー」

「そうか」

「雨で少し温度が下がってたのかもね。あ、」

 

 バシャ! と大きな水音がした。

 

「大丈夫か!?」

「うん、意外と深かった」

 

 シェイドは大きくため息をつく。

 

「……頼む、助けられないから……気をつけてくれ」

「うん、ごめん」

 

「……でも、別にだいじょぶだよ、こっち向いても。夫婦だし」

 

「エリュー」

「はい」

「見ていい関係かどうかじゃない」

「……なるほど?」

 

「俺の背中と泉の間には、いま境界線がある」

「そうなんだ」

「調査隊の一員と、夫婦の境界線だ。俺が振り返ると、その線を越えてしまう」

 

「……それはつまり、"夫婦だと周りに気を遣わせるから、皆と同じ目線でいよう"ってこと?」

 

「…………あぁ」

「うん、わかった。私もそういう気持ちでいるね!」


(違う。理性の境界線ってことだ)




 

「——お待たせ! ありがとシェイド」


 シェイドの両肩にポンと手を置く。

 頬が紅潮し、濡れ髪をまとめたエリューが顔を覗き込んでくる。花のような香りがする。

 シェイドはスッと顔を逸らした。


「交代の間、あまり遠くに行くな」

「うん、声が届くところにいるね!」


 

 男性陣が泉に入る。


「おー思ったより熱いじゃん」

「泉が温かいって……変な感覚だな」

「旅で温泉を見つけるのは醍醐味の一つじゃな!」

「雨で冷えた身体が温まりますね」


 エリューは近くの木に背をつけ、向こうをむいたまま話しかける。

「結構あったかいよねー!」


「おぅ、十分だな。ここ、戦線からどのくらいだろうなー」

「確かにー! 第三から通えるなら通いたいよね!」


 カーツはサッと入浴を済ませると、服を着てエリューの元へ向かった。


「カーツは偉いよなー」

 レグルスが泉のふちに両肘をついて、くつろぎながら言う。

 ゴルも同じポーズで天を仰ぎ、目を瞑っている。

 ギスロムは泉のほとりでお湯をかけながら汚れを落としている。

 シェイドはしばらく潜水したあと、勢いよく顔を上げて髪をかきあげると、ふぅーーーと大きく息を吐いた。



 

 男性陣が湯からあがり、支度を済ませると再び森の中を進み出した。

 雨はすっかり上がり、鳥のさえずりが聞こえる。

 背の高い木々、青々と茂る草、特に異変の見当たらない森が続いていく。


 

 日没前に差しかかり、森の中で野営の準備を始めた。

 

 湿った枝は焚き火には使いづらい。

 エリューは枝を集め、端から撫でるように手を滑らせる。

 枝の水分が手の動きに合わせて集まり、ポタポタと地面に滴り落ちた。


「なるほど、魔法便利じゃのう」

「ゴルの魔道装置でも作れそうだね。"枝乾燥装置"」

「ほっほ、雨の後の焚き火にしか使わんのう」


 今夜も皆で焚き火を囲む。

 遠征で一番美味しかった食べ物の話や、帝国の食事についてなど、食べ物の話がよく出てきた。

 




 ——夜番にゴルがついていると、フィンが交替にやってきた。

 

「替わるよ」

「おぉ、もうそんな時間か」


 ゴルが懐中時計を開いて見る。

「少し早いぞい」

 

 フィンは木の枝で焚き火をつつく。

「目が覚めたから、いいんだ。ゴル休んできなよ」


「お前さんはエルフなのに、ドワーフに優しいんじゃな」

 

「僕らは混ざり者の集まりだから。ゴルこそ、エルフなのに気にしないんだな」

 

「ほっほ、聞いた話じゃとエルフの王とは気が合わんな。じゃがお前さんは嫌う理由がないのう」


 フィンはふっと笑った。

「不思議だね。混ざり者と虐げられて、それでもエルフでありたいと国に留まってたのに、いざ国を出たらその方がエルフとして認められて。ドワーフの友までできた。捨てたつもりが、得るものの方が多かった」


「環境を変えるのは勇気が必要じゃな。ワシの国の連中も皆、飛び出せず籠もっとる。動いた者にしか得られんものがあるんじゃ」


「"先の地"にも、得るものがあるといいな」


「すべての経験は無駄にならんよ」

 言いながらゴルは立ち上がった。

 

「ゴルありがとう。おやすみ」


「よろしくなぁ〜」

 ゴルは手を振ってテントへ向かった。



 

 ※【数合わせ】神経衰弱みたいなゲーム



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ