第112話 岩山の野営
「……あそこで行き止まりだね」
海岸線の先が岩山で埋められ、山の横は森が広がっている。
一行は岩山の前で馬を止める。
「じきに日が暮れる。山を背に野営の準備を始めよう」
皆で役割分担しながら、野営の準備を進める。
エリューは火を起こしたり、器に水を汲んだりする。
「魔法が使えるって、ほんと便利だよな」
レグルスは器を持ち、たぷんと揺れる水を眺めた。
日が暮れて、焚き火の明かりが暗闇に浮かぶ。
岩山に一行の大きな影が映っている。
「1日目、お疲れ様でしたーカンパーイ!」
皆、木の杯を掲げた。
アンゴル特製・熟成肉の干し肉を齧る。
干し野菜のスープをフウフウ冷ましてすする。
「やっほー、アーカー」
エリューは水晶玉に映るアーカーに向かって話しかけた。
「エリュー様、ご無事でしょうか。"先の地"はどんな様子ですか」
「魔物は全然いなくて、手長像が1体いただけ。荒れ地の向こうは草原と海だったよ。思ったより狭くて、すぐ一周できそう」
「左様でございますか……安全に調査が進んでいるなら、何よりです」
「うん、また連絡するねー」
手を振って通信を切る。
「昔から見てきた地平線にいるの、どんな気持ち?」
スープの器を両手で持ち膝の上に乗せ、シェイドの方を見る。
「——意外な印象だ。戦線から見える荒れ地がひたすら続いていると想像していた。果てしなく広がる荒れ地に、魔物がいるような……」
シェイドの端正な顔が焚き火に照らされ、オレンジ色の影が揺らめく。
「確かに。草原や海岸は、俺も想像してなかったな」
レグルスが杯を傾けながら同調した。
「自分の足で辿り着くと、想像の何倍も面白い。だからワシ、旅が好き」
ゴルは干し肉を齧り、髭の口を動かす。
「ふふ、私も遠征で旅が好きになった。こうやってみんなで過ごす時間がとても好き」
「しかし残念だが、明日は雨が降る」
ギスロムが星を見上げて言った。
「え、どうして分かるの?」
エリューも星を見上げる。
「あの、3つ並ぶ星が瞬いている」
「どれどれ?」
エリューは立ち上がり、ギスロムの隣に腰掛ける。
ギスロムは星を指差す。
「……あ、アレのことかな。ほんとだチカチカしてるね」
「森の中に天幕を張っておきましょうか」
カーツがたたまれている天幕を手に取った。
「あぁ、止むまでは動かない方がいいだろう」
シェイドとレグルスも立ち上がり、森へと入っていった。
「そっかそっか、明日は止むまでみんなでカードゲームだね。ギスロム、これがカードね。数字が書いてあって、これがパピルキーね」
エリューは皮袋からカードを取り出してギスロムに見せた。
——夜は交替で見張りを立て、順番に睡眠をとった。
シェイドが木にもたれて座り、草原の方を眺めている。
レグルスがあくびをしながら交替にやってきた。
「お疲れーす」
「あぁ」
レグルスはシェイドの隣に腰掛ける。
「……結構、初日から戦い通しの覚悟で来たんで、拍子抜けっつーか」
「あぁ。こんなに穏やかに進むとは思わなかった。魔物が地下迷宮から来ているなら、地上の調査はすぐに済むかもしれないな」
「ですね。……まぁ、水入らずとは程遠いけど、しばらく旅行気分で楽しんでください」
シェイドがフッと笑った。
「そうだな。エリューは大勢と一緒の方が喜ぶ」
「いや。陛下と周りは別ですよ」
「どうだろうな」
シェイドは立ち上がり、軽く手をあげる。
「あと頼む」
シェイドはテントへ向かって歩いていった。
テントに入ると、エリューが寝息を立てていた。
隣で横になり、しばらく寝顔を眺める。
小さく吐息をつくと、くるっと背を向けて目を瞑った。




