第110話 "先の地"調査会議
シェイドとエリューは2人でゴルの工房へ向かう。
「ゴルおはよー。腕輪と腕輪盾、とても嬉しかった、ありがとう!」
エリューは手をかざし、腕輪を見せながら言う。
「ほほい、喜んでもらえて何よりじゃな」
「ゴルにもう1件、相談がある」
シェイドは計画書を机に置く。
「私とシェイドね、"先の地"へ行こうと思ってるの」
「ほほう」
「危険がいっぱいかもしれないので、念のための安全装置が欲しくてね。これ、用意してもらえる?」
「ふむ。お安いご用じゃ」
「ちなみに……ゴルは一緒に行く?」
「あぁ、行くぞい」
ゴルはリュックを背負った。
「……まだまだまだ! 他にも用意するものがあるから、待ってて!」
「そうか。ワシ、いつでも行けるぞい」
ゴルはリュックをヒョイっとおろすと、うんうんと頷いた。
「助かるよ、ありがと。また声掛けるね!」
工房を出て、2人で廊下を進む。
「次わたし、お母様のところ行ってこようかな」
「俺はノームのところへ行く。エルフとセントールには明日、戦線で声を掛ける」
「うん、わかった。後でね!」
——数日後。
シェイドとエリューは、アーカーの執務室のドアを叩いた。
アーカーは笑顔で2人を招き入れ、椅子に座らせた。
「お揃いで、どうなさったんですか」
「アーカー。二人で先の地の調査を検討している」
「左様でございますか」
「……行ってもいい?」
「条件次第、でしょうか」
「どんな条件?」
「お二人が旅立ってそのまま帰らないのが、我々の一番恐れる事態です」
「……絶対帰還できる体制を組めれば、いける?」
「上層部の説得はしやすいかと」
シェイドがアーカーの机に書類を置く。
「調査隊の編成と計画表だ」
エリューもアーカーの机の上に書類を置く。
「調査のために用意した安全対策です」
アーカーは書類を手に取る。
「——なるほど。既に対策を練っていらしたんですね」
「そうなの」
書類にじっくりと目を通す。
——顔を上げて二人に笑いかける。
「いいですね。では、関係者を集めて会議を開きましょうか」
——さらに数日後。
アーカーは関係各所を招集し、会議の場を設けた。
関係者が円卓の間に集まる。
「長年頓挫していた、戦線の埋め立て計画が再び動き出しましたが、その前に陛下と皇妃様から提案があり、皆様をお呼びしました」
エリューが口を開く。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
「戦線を塞ぐ案は帝国の安全を考えると良いのですが、塞ぐ前に確認しておきたいんです。本当に塞いでしまってよいのか」
「確認……それは、つまり……」
ローガン騎士団長が発する。
「先の地の調査に向かう」
シェイドが告げる。
——円卓の間にざわめきが広がる。
「それは……なりません」
「先の地の調査は確かに計画が進められていた時期もありますが……"あの日"以来、触れてはいけないものへと変わりました」
シェイドが答える。
「そうだ、我々には先の地への知見がない。
地平線の先がどうなっているのか、どこから魔物がやってくるのか、隣接しているのに何も知らない」
「ノームの古書に、地下世界の話を書いたものがありました。翼人に、マーメイド、魔族などの異種族が住んでいると……これは、"先の地"のことではないかと思うんです」
「翼人?まさか……」
近衛騎士団長が驚く声を上げる。
「遠征で色々な種族のみんなと交流して、世界が広がりました。もし先の地にも、わたし達と繋がる存在がいるとしたら、扉を閉めることになってしまう」
「しかし、我々の文献には先の地との交流記録は残っていません。本当にいるとは信じ難いです」
ローガンが軽く首を振る。
「ノームのみんなにも確認しましたが、真偽のほどは不明でした。だから、確かめに行きます」
エリューは澄んだ瞳をローガンに向けた。
「計画は資料の通りだ」
シェイドが言うと、みな資料に目を落とす。
調査隊のメンバーの中にシェイドの名前を確認する。
「……まさか、陛下まで行かれるおつもりですか!?」
「なりません、陛下の身に何かあっては!」
「調査隊を50人派遣するより、俺が行く方が効率がいい」
「ドワーフからはゴルが参戦してくれます。ノームは戦い向きではないので不参加、セントールとエルフからは適任を選ぶと返事をもらってますが……」
エリューがエルフの年長者ウォーリエンに視線を送る。
「エルフからはフィンが参加します。弓と剣が扱え、最近は全属性の魔法をバランスよく使うようになりました」
ウォーリエンが答える。
「ありがとう。セントールは誰が行くか決まった?」
「みな同行を希望したゆえ、試合を開催し、決した。初動は我が参戦しよう」
ギスロムが腕を組み、笑みを漏らす。
「あ、みんな行きたかったんだね」
「未開の地を巡る旅だ。血が沸く」
「……このように精鋭を揃えているので、ご安心ください。必ず無事に帰還します。また、安全な帰還を支える手段も用意しました」
エリューは資料を見せる。
水晶玉——帝国本部との通信手段
魔道装置——魔力がなくても魔法陣を発動可能
魔法陣——転移魔法を発動
「水晶玉を帝国本部と各戦線に設置します。これで、離れていても連絡が取れます。また、私がなんらかの問題で魔法が使えなくても、転移魔法で陛下をその場から離脱させる準備も整えました」
「だから——大丈夫です!」
会議室の面々はみな、言葉を失った——
アーカーが両手を円卓に当てる。
「——では、決まりですね」
重鎮たちは顔を見合わせ、ため息をついた。
「くれぐれも無理をせず、無事に帰還なさいますよう……」
エリューがパッと笑顔になる。
「良かった! 安心してください、必ず無事に帰ります!」




