第106話 エリューの初陣
エリューとセリクは第一戦線の林の中にいる。
「今日から3日間、よろしくお願いしまーす!」
「よろしくお願いします」
二人は魔術団の隊員達に挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「新魔術理論や精霊についても、色々教えてください!」
「みんな、魔術学校の講師も交替で組むのよね?」
「戦地専門、講師専門、両立と分かれています」
「そか。みんなの担当覚えていかなきゃ」
「全属性の魔法はどう? 慣れた?」
「練習したら、本当にどれも発動できました。やはり偏りはありますけどね」
「でも火や水を出せるのは本当に便利です」
「そだよねー魔法って便利」
「この林から、どうやって敵を攻撃するの?」
「木の陰から狙って詠唱しています」
「隊員と近接戦している敵を攻撃すると隊員を巻き込むかもしれないので、遠くにいる敵を狙ったり、壁を作って守ったり……」
「ふんふん」
ひと通り打ち合わせを終えると、エリューは地面に布を敷き、チュッキーを広げた。
「じゃ、ちょっとお菓子でもつまみながら、魔物待ちだね」
セリクは背を向けて、林の隅に立っている。
「セリク、一緒に戦うのシーカント以来だね!」
「……魚と魔物では訳が違います。そもそも実戦向きじゃないから僕は研究院に入ったんです。ほとんど役に立たないと思います」
「そんなことないよ。セリクは色んな属性も扱えるし、魔力強いと思う」
「……エリュー様の傍にいるから、魔力のおこぼれをいただいてるのかもですね。僕の実力じゃないです」
「あ……それだ!」
「?」
「海育ちの人は水属性が得意だよね。水の精霊が沢山いる場所で常に一緒にいるから。セリクは私とずっと一緒にいるから、全属性が底上げされたんじゃない?」
「……えっ」
「なるほどなぁー。私、便利だな……」
(それって、つまり……精霊の加護……? 聖堂で祈りを捧げて光が降ってくるような神聖なものだと思ってたけど……)
(仕事してたら知らん間につくとは。そんな地味な加護……ありがたみが……)
遠くに魔物の群れが見えてきた。
「あー、飛ぶ系、いますね。飛びエイです」
「飛ぶ系いると、まずいの?」
「狙いやすいけど、気付かれるとここまで飛んできて攻撃してくるので厄介です」
「あーなるほど。気付かれないように当てるのね」
エリューは数十匹の飛びエイに風魔法をぶつけた。圧縮された渦巻きの球をくらい、魔物はバタバタと地面に落ちる。が、半分くらいがすぐに飛び直す。
「もう少し強くか……」
再びぶつける。また半分くらい飛び直す。
「えー結構しつこいのねー」
隊員たちと魔物の近接戦が始まった。
魔物に魔法を当てようと思うと、隊員に照準が合ってしまう。
「うわー、これ……狙いづらいねー」
「そうなんすよ」
「防護壁を作るにも、いきなり目の前に現れたら戦いの邪魔かなーって思っちゃうね」
「そうなんすよ」
「魔術団は近接戦の前に、先制攻撃がいいんだね。壁も、作るなら近接戦の前に作ってあげる。勉強になるわぁー」
最前線で戦うシェイドの姿が見える。
強そうな敵を優先的に切りに行き、押されている隊員をサッと助太刀して回り、よく動く。
(……いい眺めだな)
魔物の群れが一掃され、エリューは昼食をとりに調理場へ向かった。
今日の調理場にはルトが入っている。
「おっエリュー、初戦はどうだったよ?」
「うん、思った以上にみんな難しい事こなしてて、凄いと思った!」
「おぉーやってみなきゃわかんねえもんな!」
ルトが魔法陣の前に立ち、鍋を待っている。
鍋が先日よりゆっくり飛んでくる。
ガシャン。
「あれ……なんか穏やかじゃなかった?」
「ノームがお前の光の柱を見てスピード調整を閃いたらしい。昨日魔法陣を交換しにきた」
「仕事が早い」
「みんなー飯の時間だぞー!」
ルトが丘に向かって声を掛ける。
「エリューもいっぱい食いな!」
「はーい! いただきまーす!」
エリューは丘の上で昼食をとることにした。
地平線がよく見える。
シェイドがエリューの隣に座った。
「大丈夫か?」
「うん、戦いながらの魔法って、発動のタイミングとか難しいね。みんなに教えてもらえて、いい経験」
「飛びエイが次々と落ちたので、隊員達は盛り上がっていた」
「あ、ほんと? アレ合格点?」
「あぁ」
「良かったー」
エリューは地平線を見ながらパンを齧る。
「……ね、戦線を塞ぐ計画が出てるんだよね?」
「あぁ。元々戦線は一つの広大な土地だった。隔壁を作り4つに分け、埋め立てていく計画を立てた。しかし双頭竜が来た時に中央の隔壁が破壊された。あれから計画は中断したままだ。今回の新戦団や異種族招致で戦線の人員に余裕ができ、再び計画が浮上してきた」
「そうだったんだね……」
「戦線が1つでも減れば負担は軽くなる」
「うん、でも……もし戦線を完全に閉じるとしたら、その前に "先の地" を見ておきたいな……本当に閉じてしまって、いいのか……」
シェイドはエリューの横顔をじっと見つめる。
エリューもシェイドの方を向く。
「ねぇ、もしわたしが先の地へ行くとしたら…………」
シェイドは黙ったまま、地平線へ視線を移す。
エリューは静かに息を吐いた。
(……さすがにダメだよね。どう考えても危険だよね)
「…………俺も行く」
「…………えっ」
「すぐには動けない。上層部の了承を得て、俺が抜けた戦線配置を組み、遠征隊も厳選する必要がある」
「……う、うん」
(検討してくれるんだ)
「……いいの?」
シェイドは少し視線を落とす。
「"先の地" の調査は、昔は議題に上がっていた。あの日から触れる者がいなくなったが……必要な事だ」
「大陸の遠征のように簡単には行かせられない。だが……自由に生きて欲しいと言ったからな」
シェイドは再びエリューに目を向けた。
「……心配で行かせたくないなら、俺も行けばいい」
「シェイド……」
「アーカーに話してみる。あいつが反対したら、説得するのは至難の業だ」
「そうだね。勝てる気がしないね」
「ゼリアにも話してみよう。うまく橋渡ししてくれるかもしれない」
「……騎士団の一番隊隊長?」
「アーカーの妻だ」
「……えぇぇーーーー!?」




