第105話 ノームの古書
エリューはノーム達の離れにやってきた。
「無事に魔術学校が開校しました。みんな協力ありがとうー!」
その場にいた数人のノームたちがパチパチと拍手をした。
「お姫さま、よかったな」
「魔術理論が盛んになるのは大歓迎だ」
「我々も近いうちに見学に行くぞ」
「塔のてっぺんに、あの意味のない魔法陣を掲げたんだってな」
「デザインはいいが理解に苦しむ」
「いや無意味に見えることこそ、有意義に繋がっているのやも」
「そうそう、みんな教本用の魔法陣も沢山描いてくれたんだよね。ありがとう!」
「人間たちが既存の魔法陣を真似して描くことしか知らなかったのは驚いた」
「随分と不自由な魔法陣だ」
「教本で学び、自分で描けるようになるといいな」
「私も知らなかったよ〜。魔法陣って古くから伝わるものを解読して扱うものだと思ってた。自分で描けるんだねー。でも、山のようにある"印" を覚えるのが大変」
「覚える必要はない」
「全部覚えてるヤツはノームにも殆どいない」
「印を集めた本を隣に置いておけば、暗記しなくても描ける」
「まぁ、そうなんだけどさ。多少覚えないと毎回調べるのも大変じゃない?」
エリューは本棚に目をやる。
【地下の空】という本に視線がとまった。
手に取り、ページをめくる。
「……ねぇカプタ。この本借りてもいい?」
「いいよ。読み終わったらそこに戻しといて」
カプタと呼ばれたノームの青年が答える。
本名はアポスカプタルだが長いのでエリューは愛称で呼んでいる。
エリューは部屋に戻り、改めて本を読んだ。
とある人物の視点で書かれた、日記のような語り口調で綴られている。
ある日、その人は大きな洞窟を見つけ、探索する。
真っ暗闇を進むと紫色の空間が広がり、いつの間にか頭上には空が見えている。しかし、紫色の空。
クラーケンなどの強力な魔物に出会った話。
翼の生えた人、マーメイドやマーマンなどの異種族が暮らしている話。
「これ……もしかして、"先の地"の話なのかな……」
エリューは本を読み終わると頬杖をつき、窓の外をじっと見つめた。
翌日、再びカプタの元を訪れた。
「ありがとうー面白かった。ちなみにこの本、手記なのかな?」
カプタは本を受け取り、眺める。
「随分古い本だね。僕読んでないからちょっと分からないな。内容は?」
「地下世界の記録のような感じ。各地の様子や、異種族の説明とか……詩とか」
「雑多な詰め合わせみたいだね。僕が読んでないわけだ。空想を綴った本なんじゃないかな?」
「そうかー」
(でも、もし"先の地"に、こんなに沢山の異種族が暮らしているとしたら……)
エリューはカプタの手元の本を見つめた。
(扉を、閉めたくないなぁ)




