第104話 帝国魔術学校 開校〜後編〜
エリューの部屋を掃除しに来たマルサは、テーブルを見て驚愕した。
「これ……!」
国民戦団と訓練場にいたレグルスの元へマルサが走り込んできた。
「レグルスさん、大変です!」
「なんだ、どうした」
「姫さま、これ、忘れてる……!」
マルサは息を切らして、長い筒を見せる。
「召喚の魔法陣……あいつ、何やってんだよ!」
副隊長を振り返る。
「悪い、大急ぎで魔術学校まで行ってくる。あと頼む!」
レグルスは筒を肩から掛け、馬房へと駆け出した。
「あぁぁ……どうしようどうしよう」
エリューは落ち着かない様子で辺りを見回す。
「折角みんなが準備してくれたのに……ごめん。ごめんね……!」
「いえ、あんなに大きな筒なのに、持っていない事に気付かなかった僕にも責任があります。……召喚は元々予定されていた事ではないですし、そんなに落ち込まないでください」
「でも、折角みんなが精霊に会える機会なのに……精霊達も準備してくれてるのに……」
「リーサかマルサが気付けば、レグルスが動く。途中で合流した方が早い。行ってくる」
シェイドはエリューの頭に手を乗せる。
「大丈夫だ、きっと何とかなる」
そう言うと門に向かって走って行った。
レグルスは馬を飛ばした。
深い森に差し掛かり、南へ方向を変えて走る。
しばらく進むと、高台に人影が見える——
「レグルス! こっちだ!」
「……陛下!」
レグルスは高台へ馬を走らせる。
蔦がびっしり生い茂った道が行く手を阻んでいる。
「切り開いて突っ切る!」
シェイドは一閃を放ち、蔦を薙ぎ払う。
二人は片腕を顔の前に構え、蔦の中を駆け抜ける。
——新入生達が続々と門をくぐり始めた。
ローブの制服に身を包み、塔の魔法陣を指差しては歓声をあげる。
エリューは回廊からその様子を見つめ、胸元でギュッと手を握る。
二人は長い蔦のトンネルを抜け、林に差し掛かった。
「……あと少しだ!」
「了解!」
二人は馬を操り、木々の間を巧みに駆け抜けていく。
広場に新入生達が整列し始めた。
教師達も揃い、いよいよスウィフト校長の挨拶が始まった。
「皆さん、帝国魔術学校へようこそ。ご入学おめでとうございます」
エリューは落ち着かない様子で回廊の隅に立ち、門の方向を見つめた——
シェイドとレグルスは校門で馬を乗り捨て、全速力で広場へむかう。
レグルスは走りながら筒を開け、魔法陣の半分をシェイドに渡す。
(昨夜聞いておいてよかったぜ……)
回廊の奥に、走ってくる二人の姿が見えた。
エリューはほっと胸を撫で下ろし、二人に手を振る。
「間に合ったよセリク……! すごい!」
二人は走って来た勢いのまま壁を蹴り上げ、回廊の屋根によじ登る。
スウィフトがエリューの紹介をする。
エリューはゆっくりと壇上へ上がり、挨拶を始めた。
「……皆さん、初めまして。皇妃のエリューです。入学、おめでとうございます」
「——中央塔の大きな魔法陣は、ご覧になりましたか?」
屋根ではゴルと弟子たちが待ち構えていた。
みんなで手分けして屋根に魔法陣を貼り付ける。
「魔法は、想像力と繋がっています。皆さんの身近にいる精霊たちを想像して、仲良くなってください」
レグルスとシェイドは屋根から手をあげて、エリューに完了サインを送る。
エリューは二人に笑顔を返した。
「そして、皆さんを見守る精霊たちの事も、知っていて欲しいです……空を見上げてください!」
生徒たちが一斉に空を見上げる。
エリューが魔法陣に魔力を送ると、光の柱が空へと伸び、リュシアと精霊達が姿を現した。
わぁぁ……!
広場からは大きな歓声が上がった。
「はぁっ、はぁっ…………間に合ったぁーー……!」
レグルスは息を切らして屋根に座り込む。
シェイドも向かいの屋根で息を切らして座り込んだ。
二人は目を合わせ、笑った。
「ほんとにすみませんでしたーーー!」
「おっまえ、ほんと、ふざけんなよなー!」
レグルスはエリューの頭を手の平でグリグリした。
「速駆けの記録更新だぞ、おい!」
「ほんと、めちゃくちゃ速かったと思います!」
「陛下が蔦をぶった斬らなきゃ確実に間に合わなかったな。ゴルたちも待っててくれなかったら無理だったわ。ほんと、連携の奇跡だぞ」
「はい、皆さんのおかげで何とかなりましたー!」
「反省しろよっ!」
「してます! もう、すごく!」
リュシアが笑う。
「みんなで上から見守ってたのよー、凄くハラハラドキドキしたね!」
「……そうだったの?」
「呼ばれてないけど、行っちゃう? 間に合わなかったら、いいところで出てっちゃおうか、なんて話してたのよね」
精霊達がゆっくり頷く。
「でも、間に合って良かった〜二人とも凄く速かったわね! あーー面白かった!」
リュシアは満足そうに
「……そっか、最悪エリューが直接精霊界に行って呼んできたら、何とかなったんだな」
レグルスの言葉にエリューは少し考え、ハッとした顔をレグルスに向ける。
「お前…………ほんと、そういうとこだぞ」




