第101話 アーカーとゼリア
城下町にある酒場で、アーカーとゼリアが食事をしている。
「今日、皇妃様が戦線にいらっしゃったわよ。陛下と内緒話してるところ、見ちゃった」
「そうでしたか。お二人の仲睦まじい姿を見ると、幸せになりますよね」
「戦線の陛下をずっと見てきた者にはね、特に "双頭竜の日" を知ってる人間には、胸にくるわね」
ゼリアは頬杖をつき、微笑みながら瞳を潤ませる。
「国民戦団に 異種族の招致、魔術学校の開校……エリュー様は心だけじゃなく、実際に陛下に自由を与えてくれてる。私達にもね」
「選抜試験の準備を始めた時は、まさかこんな皇妃様が決まるとは、思いもよらなかったですね」
「ふふ、そうだあの頃、アーカー忙しかったよね」
「我らが陛下の結婚相手ですから。膨大な応募書類も全て目を通しましたし……」
「アーカーはエリュー様のこと、最初から注目してたね」
「全項目対応可能の超人でしたからね。しかも初日の謁見は取り止めになるし……」
「あは、会う前からぶっとんでたのね」
「謁見の時間までに政務を終えた陛下は、急な自由時間に戸惑って散歩に出られました。あの時、離れに行ったのではと思っています」
「陛下も最初から気にかけてたのね」
「戻るなり、"期間中、戦況に余裕ができたら候補者と交流する時間に当てる"と仰った。何があったんでしょうねぇ」
アーカーは微笑みながらグラスを揺らした。
「そうだ、お義父様が国民戦団の事であなたと話したいって言ってたわよ」
「……ゼリアに言わず、私に直接言えばいいのに」
「公にはあなたの方が上だから、会議では言いづらいんでしょうね!」
ゼリアは笑いながらジョッキを傾ける。
「……この後、グランバート家に寄っていきます」
「私も付き合う」
食事を終えると、二人で貴族街へ向かって城下町を歩く。
「国民戦団が出来て、街が身近に感じられるようになったの。あの花屋さんは "短剣のマッジ" の実家。騎士に憧れて剪定をずっと短剣でやってたんだって」
「夢叶って、何よりですね。」
「今まではただの街のお店だったのが、仲間の家になった。そういう場所が増えて、街に愛着が湧いてくるわ」
グランバート家に到着した。
執事が入口へ迎えに来る。
「アーカー様、ゼリア様、お帰りなさいませ」
居間へ通される。
「アーカー、よく帰ってきたわね」
「母上、お元気そうで何よりです」
「ゼリアさんも、よく来てくれたわね」
「ご無沙汰しております」
ローガンがやってきた。
「アーカー。国民戦団の今度の初陣を一周期早められるか」
「レグルス隊長に相談しないことには何とも。なぜです?」
「魔術学校の開校に伴い、人員の確保が必要だ」
「それならエルフやセントールに相談するのが良いかと」
「帝国の催事だ。まずは帝国の人間から動かすべきだろう」
「彼らも今は帝国民と同じです。国民戦団の初陣を早めたところで戦力は増えません」
「力を貸してもらっている側が、礼を欠くことはならん。まずは自分達で動くのが道理というもの。
異種族に頼ることに慣れれば、いずれ人は努力を怠る」
「しかし、初陣の日に向けて準備をしている隊員たちの心を乱すのは、信頼関係にも響きます」
「…………」
「…………」
「……とにかく、レグルス隊長に相談します。難しければ、エルフとセントールに増員してもらいます」
アーカーとゼリアはグランバート家を後にした。
「二人の話し合いは相変わらずね」
「……話を通せば、結果は伴わなくても良いのでしょうね。生きてきた時代の違いを感じます」
「官僚にもいっぱいいるでしょ。年配者からしたら若造の動きは浅はかに見えて不安に感じるのよきっと」
「……はい、諸先輩方も納得させられる立ち回りが出来るよう、気をつけます」
「ふふ、みんなをまとめるのって大変よね」
ゼリアはアーカーの背中を叩きながら歩く。
道には月明かりに照らされた二人の影が揺れていた。




