第100話 戦線ご飯
エイヴァンがバルクシアへ帰国するため、
エリューとリュシアは城門まで見送りにやって来た。
「……リュシアやお前と過ごす時間が取れて、良かった」
ぎこちない口調で娘に話しかける。
「……お気を付けてお帰りください」
「エリュー」
「はい」
「今までのこと、本当に……すまなかった」
エイヴァンは頭を下げた。
「許してもらえるはずもない……しかし、このままで一生を終えるのは耐え難い。せめて、いつかお前に笑いかけてもらえるよう……努力させてくれ」
頭を下げたままそう告げると、エリューの顔は見ずに踵を返し、馬車に乗り込んだ。
エリューは複雑な顔で馬車の後ろ姿を見送った。
「……ちゃんと、謝れたわね。あなたのマネして、気にしてるならちゃんと謝りなさいって伝えたの」
「……少し遅いけど、頑張ったのは認めてあげて」
リュシアがエリューの肩を抱いた。
「……はい」
リュシアも精霊界へ戻っていった。
光の柱が消え、エリューはポツンと一人で佇んだ。
小さなため息をつくと、馬房へ向かった。
馬に乗り込み、戦線へと走らせる——
第二戦線へ到着し、馬を停め、丘へ向かう。
丘の見晴らしが良いところに、シェイドと騎士がいる。
地平線に1匹、魔物の姿が見える。
騎士がエリューに気づき、シェイドに声を掛ける。
シェイドはエリューの方へ駆け寄って来た。
「どうした?」
「ううん、新しい調理場を見に来たの」
そういうと、シェイドの耳元に口を寄せ、
「寂しがってると思って」
小声で囁いた。
シェイドは頬を緩ませ、周りに聞こえない小声で
(よく分かったな)
と囁くと、エリューの背中を押した。
「案内する」
一度、見晴らし台の騎士を振り返る。
「お任せください」
騎士は敬礼した。
「あぁ、すまない」
調理場では給仕員が作業をしている。
勝気な雰囲気の女の子だ。
「ザラ」
呼ばれて女の子が振り返る。
「皇妃のエリューだ」
「初めまして、ザラ」
「……うわ皇妃様! 初めまして、ザラです」
ザラは重ねた器を持ったまま頭を下げた。
「新しい調理場はどう? 色んな仕組みがあるんだよね」
「はい! こうすると台の高さが変わったり……」
ザラは調理場の仕組みを簡単に説明する。
「もう殆ど慣れました」
「良かった! 鍋を受け取る時は気をつけてね。
スピードの調整とか、出来るようになるといいんだけど……」
「凄いですよね、お料理が飛んでくるなんて!
もうすぐ時間なので、皇妃様も食べていってください」
「エリューでいいよー。ありがとう、一緒に食べる!」
調理場の掛け時計が鳴る。
しばらくすると魔法陣がうっすら光り、光のトンネルが伸びる。
鍋がトンネルの中を飛んでくる。
ガシャーーーァァン!
大きな鍋が音を立てて地面に着陸する。
ザラはすぐに鍋を斜めに転がし、魔法陣から出す。
「わぁ。実際見ると迫力だね」
「この音がすると、間も無く食事だと分かるようになった」
「第二陣も来るので、お気を付けて!」
ガシャーーーァァン!
再び鍋がやってきた。
ザラはまた鍋を転がし、調理場へ運ぶ。
「……いい匂いしてきたーお腹すいたね!」
長テーブルにパンが山盛りに並べられ、ザラが鍋の前に立つ。
「お食事の時間でーーーす!」
ザラが大きな声で呼び掛けると、徐々に隊員達がやってきた。
エルフやセントールの姿もある。
「わたし、このスープよそうね」
エリューも鍋の前に立つ。
「えっ! いいですよエリュー様も先に食べてください」
「やってみたい。一人分はこのくらいでいい?」
「あ、はい、そのくらいです……陛下、あの」
「自由にやらせて問題ない」
シェイドはエリューがよそった器を受け取る。
「あ、エリュー様お越しだったんですね!」
「そうなのー調理場、良くなったね!」
「はい、お陰さまで毎食楽しみになりました!」
「それは何より。あったかいご飯、嬉しいよね〜」
平たい皿とスープの器を組み合わせられる、ドワーフ特製食器で隊員達は順に食事を受け取り、調理場の前の原っぱに座り込んで食べ始める。
「ザラは肉の焼き加減が絶妙なんですよ」
「外側がちょっとカリッと、中はじゅわーっとします」
隊員たちがエリューに言う。
「ふふ、ちょっとこだわりで」
ザラが鍋に手をかけて自慢げな顔をする。
「うわぁーそうなんだ! 凄い食べてみたい。お肉が出る日を狙って来なきゃ」
エリューは真剣な顔でスケジュール帳を開く。
「無垢な太陽」
「あ、ギスロムお疲れ様!」
セントールの長・ギスロムがエリューの隣に来る。
「そこの林にみんなで住んでるんだよね。環境はどう?」
「悪くない。戦線を見渡せ、常に体制を整えられるのが良い」
「みんなで帝国に来るの、平気だった?」
「我々は元々各地を巡る種族だ。今は無垢な太陽の傍で過ごせる方が良い」
エリューは両手で頬を挟んでパァッと笑う。
「ありがと! ねーフィン、新技ができたんでしょ? 見たい見たい」
エリューは色々な者たちの横に行き、話しかける。
シェイドはそんなエリューを見つめる。
隊員たちはそんなシェイドを見つめる。
「——じゃあ、お邪魔しました! みんな午後も気をつけてね!」
みんなに手を振り、シェイドと共に馬停めへ向かう。
エリューは馬に跨り、シェイドの顔を見た。
シェイドは目が合うと、微笑みを返す。
「……シェイドありがと。 寂しかったのは私のほう。
会えて元気出た。大好き。お城で待ってるね!」
エリューは早口で伝えると、サッと駆けていった。
シェイドは無防備の棒立ちになり、その後ろ姿を見送った——




