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エピソード2

彼らは浮いていた(続き)


ホワイトサンズの惨劇から三ヶ月後、世界は大きく分断された。


「USLは知性を持ち、感情を持つ。交渉すべきだ」——欧州連合とカナダが主導する「調和派」。彼らは共生に成功した民間人の証言を集め、USLが危害を加えたのは「自衛のためだけ」だと主張した。


「いや、あれは明確な敵対行為だ。殲滅または完全な管理が必要」——アメリカ、ロシア、イスラエルが中心の「防衛派」。彼らはホワイトサンズの生存者を引っ張り出し、テレビカメラの前で「あの笑い声」を再現させた。その音声は世界中で再生され、多くの人が悪夢を見た。


中国はどちらにも与しなかった。独自に「飼育」に成功した三個体を使って、驚くべき成果を上げていた。なんとUSLを核融合炉の触媒として利用する方法を開発したのである。これにより、事実上無尽蔵のクリーンエネルギーが手に入った。他の国々が戦争の準備で騒いでいる間に、中国は電力コストを九割引き下げた。


そして日本は——独自の道を選んだ。


「移植ではなく、共存でもない。『対話』を目指す」


そう宣言したのは、京都大学霊長類研究所の異端児、西条薫教授だった。彼女の理論は非常識極まりなかった。USLは「個体」ではなく、一つの巨大なネットワークの「ノード」であり、それぞれが部分的な意識を持っている。つまり、一個体と話すことは、全体と話すことに等しい、と。


世界中の科学者が嘲笑した。だが西条は実績を示した。彼女はUSL三個体を同時に体内に取り込んだ男性——元ホームレスの五十代、鈴木健一——との対話を実現したのだ。


鈴木は言った。


「彼らは怒ってないよ。ただ、悲しんでるんだ。人間が自分たちのことをまるで分かってないって。あいつら、人間のこと『重力の檻に入れられた哀れな生き物』って呼んでるよ。でも檻から出る方法を教えようとしたら、武器にして戦おうとするから呆れてる」


「彼らはどこから来たの?」西条は訊いた。


鈴木は少し間を置いて、こう答えた。


「『ずっとここにいた。お前たちが気づかなかっただけ』ってさ。それと——『お前たちは自分たちが何か特別な存在だと思ってるけど、ただの通過点にすぎない』って」


2041年、人類は選択を迫られていた。


防衛派のアメリカが「G-project」を発動。兵士の体内に強制共生させたUSLを搭載した、史上初の反重力歩兵部隊が完成する。一個小隊で一個師団相当の火力を持つと言われた。


調和派は緊急会合を開き、「USLの権利宣言」を採択。国連にUSL保護委員会の設立を求めた。


中国は黙々と反重力エネルギー発電所を増設し、電力輸出を始めた。


そして日本では、西条と鈴木の前に、一人の少女が現れた。十三歳、名は橘夏海。彼女は生まれつき、常に三センチ浮いていた。医者は「特発性浮遊症候群」と診断したが、彼女は違うと言った。


「違うの。私が呼ばれたんだ。彼らに」


彼女の体内には、すでに十二個のUSLがいた。さらに彼女は言った。


「もうすぐ、みんな来るよ。今まで会いに来なかったのは、人間がまだ準備できてなかったから。でも、そろそろ決めなきゃいけないって」


「何を決めるの?」西条が訊いた。


少女は微笑んだ。その目は、十三歳のものではなかった。


「重力を手放すか、それとも——重力に飲まれるか」


その夜、世界中の天文台が同じ現象を観測した。成層圏から外縁部にかけて、無数のUSLが出現していた。数は推定数百万。それらはすべて、一方向を向いていた。


日本。橘夏海の家の真上だった。


人類はまだ知らなかった。これが絶滅の始まりではない。進化の始まりでもない。これは——「選別」の始まりだったのだ。

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