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エピソード1

捕獲は偶然だった。


2035年、スコットランド沖。北海の油田プラットフォーム「ブレンタ・デルタ」の解体作業中に、クレーンオペレーターのジェイミー・マッケンジーは海面すれすれに浮かぶ「何か」を目撃した。直径三十センチほどの半透明の球体。風もないのに波を無視して静止している。


会社に報告したところ、返ってきたのは「触ってみろ」という命令だった。


彼はゴム手袋をはめて、ゆっくりと手を伸ばした。


指先が触れた瞬間、球体はまるで水が染み込むように彼の手の中に消えた。痛みはなかった。ただ、手のひらに奇妙な温かさが残った。


それから三時間後、ジェイミーはプラットフォームの甲板から飛び降りた。高さ三十メートル。誰もが死を確信した。


しかし彼は浮いていた。


海面から十センチの高さで、水平に。まるでそれが最も自然なことであるかのように。


世界中のメディアが彼の映像を流した。政府はすぐに彼を隔離し、「静菌処理」という名目で研究施設に収容した。だが映像はすでに拡散していた。誰もが知った——あの空に浮かぶ何かは、人間と「共生」できるのだと。


その年の国連総会はかつてない緊張に包まれた。アメリカ、中国、ロシア、そして新興の宇宙勢力となったインドとブラジル——各国はこぞって「未確認浮遊生命体(USL:Unidentified Suspended Lifeform)」の研究予算を倍増させた。軍事委員会は極秘裏に「プロジェクト・イカロス」を発足させ、捕獲個体を兵器転用する方法を模索し始めた。


問題は、彼らが捕獲を拒むことだった。


USLは触れようとすると逃げた。いや、逃げるのではない——彼らは「選択」していた。特定の人間だけが、彼らに触れ、共生できる。選ばれる条件は不明だった。遺伝子? 精神状態? それともまったくの偶然?


2037年、初の「人工共生」が記録された。モスクワ郊外の軍事研究所で、拷問に近い電気刺激と薬物投与の末、囚人ZB-409の体内にUSLを強制定着させることに成功した。その囚人は三週間後に精神崩壊を起こし、自分の影を攻撃し続けて死亡したが、彼が示した能力——周囲五メートルの重力を無効化する「反重力フィールド」——は、軍事関係者に計り知れない可能性を約束した。


人間は、神の領域に手をかけ始めていた。


そして気づいていなかった。USLはただの「動力源」ではない。彼らには意思がある。選ぶ力がある。そしておそらく——怒りも。


2039年、人類は初めて、自分たちが狩る側ではなく、狩られる側なのだと理解することになる。


ニューメキシコ州ホワイトサンズ軍事基地。そこに収容されていた二十三のUSL個体が、一夜にしてすべて消失した。防犯カメラには、彼らが壁を通り抜け、天井をすり抜け、大気圏外に向かって一直線に上昇していく様子が映っていた。


その最後の個体が、カメラの真正面で一瞬静止した。まるでこちらを見ているかのように。


そして次の瞬間——基地のすべての重力が、上下逆になった。


職員三百四十二名のうち、生存者は二十九名。彼らは天井に叩きつけられたり、逆さまに宙吊りになったりしながらも、奇跡的に助かった。全員が口を揃えて言った。


「彼らは笑っていた。人間のやってきたことを、哀れむように」

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